2010年7月31日
於:東京文化会館(15列左ブロック)

トリノ王立歌劇場公演
プッチーニ「ラ ボエーム」

演出:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ
指揮:ジャナンドレア・ノセダ
ミミ:バルバラ・フリットリ
ロドルフォ:マルセロ・アルバレス
ムゼッタ:森 麻季
マルチェルロ:ガブリエーレ・ヴィヴィアーニ
ショナール:ナターレ・デ・カローリス
コリーネ:ニコラ・ウリヴィエーリ
トリノ王立歌劇場管弦楽団・合唱団
杉並児童合唱団

フリットリとアルバレスの組み合わせ。今年期待の公演だ。この二人のコンビであるから悪かろうはずがない。今日の公演、特に3幕と4幕の歌唱は本当に素晴らしかった。3幕の、ロドルフォが、マルチェルロに、ミミとの関係をくどくどと歌うシーン、それをミミが立ち聞きして、せき込みながらロドルフォと再会、そして別れの2重唱へ、2人の熱唱は胸が熱くなる。4幕の後半瀕死のミミがムゼッタに付き添われて登場、幕切れまで、特にフリットリの歌唱が感動的。
しかし、全体を通して聴き終えて。カラヤン/フレーニ/パヴァロッティやシャイー/ゲオルギュー/アラーニャ、セラフィン/テバルディ/ベルゴンツィなどのレコードに比べると感動の度合いが今一つ薄いのである。今一番気に入っているのはシャイー盤、とても速い(100分)テンポで一気に駆け抜ける。3幕の別れのシーン、4幕のミミの死、涙なしには聴けない。しかし今日は理性では感動するが心にまで到達する、そのレベルではないように思う、歌唱は良いのになんでだろう。
演出はイタリア人のようで再演らしい。非常にオーソドックスな演出・舞台装置である。1幕は屋根裏部屋はそのとおりであるし、2幕のカルチェラタンもそれらしい。3幕は特に美しい。舞台一面雪景色で始めと終わりには雪が降っているなどなど舞台はまとも。しかし演出は少しきめ細かさが足りないというか、意図が不明の点が散見されちょっといらいらする。1幕のミミがカギを落とし、ろうそくも消え、月明かりだけの暗闇でカギを探す場面では、ろうそくが消えても舞台は照明で明るく、どうみても2人がカギを暗闇で探しているようには見えない。ト書きを見ていない人は、この場面、理解できないだろう。ミミがろうそくの火を自分で吹き消すが、これも姑息な演出。ここはト書きどおり、風で消えるようにすべきと思う。又前後するが家主が家賃の請求に来る場面でも、5人が舞台でごちゃごちゃして、整理ができていないように感じた。大体、家主が店子の家に入ってきて、ワインを手酌で飲むわけないだろう。2幕では群衆が整理できてなくただごたごたしているだけ。ムゼッタのワルツもマルチェルロだけに聴かせている。しかしこの歌はマルチェルロを焦らすために鼻の下を伸ばした、群衆に聴かせる、ムゼッタのコケットの真骨頂の歌ではないか?しかもその歌の間、ミミとロドルフォはテーブルから離れて知らん顔で、舞台左手の露天かなにかの、女の子と談笑しているではないか?意味不明の演出だと思う。
4幕のミミが臨終を迎え、皆がそれを察知したのにロドルフォは気づいていない。マルチェルロが「しっかりしろ」と叫ぶ、ロドルフォがミミの死に気がつき、悲しみに暮れて、幕の場面、マルチェルロとロドルフォが抱き合ってから、ロドルフォがミミのところへゆくもんだから何か間があいてしまりがない。といった具合で、全体に動きがもたもたしていて、細かいところの詰めが甘いように感じた。なにしろプログラムが売り切れてしまったものだから、この演出家の素性がわからない。大体プログラムを有料なんてするからこんな事態(売り切れ)が発生するのだと思う。簡単で良いから無料にすべき。詳しく知りたい方は高いものを買って読めば良いのである。と、ちょっと八つ当たり気味。

ノセダの指揮も少々ゆるい。というか、なぜか音楽がもっさりして冴えないように感じた。演奏時間はカラヤンとほぼ同じ(110分)なのだが、ところどころ停滞感があるようにも感じた。特に緩やかな部分で、歌手にじっくり歌ってもらいたいのか、テンポを落とすので音楽が流れず、全体に重苦しい音楽に聴こえた。オーケストラも何か大人しいのはホールのせいか、天気のせいか。まあ今、シャイーにはまっているものだからそう感じるのも無理ないか!シャイーの音楽は一言で言うと青春群像をひと筆で書きあげた演奏だ。生き生きとして素晴らしい。自分にとって、今のところベスト盤だ。それにしても今日は昼前の大雨で蒸し暑く演奏者も体調管理が大変だったろうと拝察する。
歌手陣ではなんといってもフリットリ。1幕ではちょっと声が細かったが3,4幕ではその美声を堪能した。ちょっと立派すぎるミミのように感じた。アルバレスも1幕で、声を出すときに、一呼吸置くのが気になったが、特に3幕以降は、絶好調ではなかったろうか?ただ二人とも更にそれを突き抜ける何かが欲しかった、というのはないものねだりであろうか?フリットリの力からすればもっと心をふるわせるような、感動的な歌唱を期待したい。森のムゼッタは評価は難しいが、私には蓮っ葉で、コケットな役柄には、森はちょっと重荷ではないか、と思われた。2幕の重唱でも声が埋没してしまう。その他脇役陣は堅実で全体に歌唱は手堅く、そつなくやったと言った印象。引っ越し公演だから仕方がないか?
ボエームという曲は自分の期待値が高いものだから、満足のゆくライブに滅多にお目にかからない。何年か前のチェドリンスのミミ(新国立)はよかったが!ただチェドリンスもちょっと立派すぎる。それぐらいこの曲のミミ役は難しいのだと思う。フリットリが今まで避けていたのがよくわかりました。なお終演後のスタンディングオベーションもいつになく大きく、フリットリの日本での人気を物語っていた。
                                〆