ケイト・ブランシェット主演のクラシック音楽の世界を描いた力作。
主人公はリディア・ターという音楽家、ベルリンフィルの首席指揮者になり、作曲も行い、著書も出版、講演活動や後進の育成も積極的。特に女性指揮者の育成に積極的だった。グラミー賞やアカデミー賞などの音楽賞は総なめ、しかも彼女の音楽の原点はペルーのある地域の少数民族の音楽だという。
その彼女の多様な活躍は、往年のカラヤンやバーンスタインを彷彿とさせる。あえていえば現代(近未来)のバースタインやカラヤンの女性版ともいえるか?映画ではターはバーンスタインに師事したことになっていて、バーンスタイン同様、マーラーを得意にしている。舞台は彼女の絶頂で、得意のマーラーの全曲レコーディングをベルリンフィルでライブで行うという設定である。かなりの部分そのリハーサルに費やされている。
彼女は同性愛者でそれは周知の事実。しかしそのことや彼女の絶頂で調子に乗ったのか足をすくわれたり?などから、スキャンダルに巻き込まれ、彼女が転落をしてゆく過程が後半描かれる。
これは、男性指揮者がMEETO運動でパワハラやセクハラなどで落ちた偶像になったのとの相似形である。映画でのターの最後の公演は東南アジアの某国でのどさ回りなコンサートで終わる。
現実にはシャルル・デュトワにしてもダニエレ・ガッティにしても最近は演奏活動をしており禊は終わったようだ。まあそれは余談。
この映画を知った時にターは実在の人物で、結局男性社会を打ち破れなかった、女性指揮者の悲劇を描いたものだと思ってみたが、大いに当てが外れた。リディア・ターはこの映画が始まった時にはもうスターだったのである。そういう意味ではこれは近未来の映画と云えようし、結局女性がトップになってもやることは男と同じともいえるだろう。いろいろな切り口でこの映画を見ることができ、クラシック音楽のファンにとっては興味深い作品と云って良いだろう。ケイト・ブランシェットの力演が光る作品だ。
世界では例えばシモーネ・ヤングが一時ハンブルグオペラの監督をしたりして、また近年ではバイロイトにもリーニフが登場したり、女性が次々に登用され始めているが、日本ではまだまだのようである。
例えばブザンソンで女性として初めて優勝した松尾葉子がセントラル愛知交響楽団の常任指揮者になった例があったが、在京の私のよく聴くオーケストラでは相変わらずの男性天国である。ただニッセイオペラなどで女性の指揮者が登用されるケースがありそういう道もあるなあとおもった。まあいずれにしろ日本で「リディア・ター」が誕生するには、いましばらくかかりそうである。
〆