_へれーね
 「永遠の門」に引き続きゴッホ関連の映画を見ることになった。
この作品は実にすがすがしい気持ちにさせる映画だ。勿論この美術館が醸すすがすがしさもあるが、
その要因の第一はナレーターである。映画ではガイド役になっていた。ヴァレリア・ブルーニ・テデスキと云う女優が語る。その落ち着いた声と、映画を見ているひとりひとりに、それこそ語りかけるような親密さを感じさせる話し方が心に残る。
もう一つは音楽である。この音楽は一つ間違えればゴッホの絵画を壊すような通俗的な表現も顔を出すが、それはぎりぎりのところで踏みとどまり、このドキュメンタリー映画映画の雰囲気を壊さない、というよりもまさに錦上花を添える感ありの音楽である。ときおり混ざるイタリアのバロック音楽風のメロディが心地よく、時には感傷的に、時にはゴッホの心情を表すように奏でる。この語り手と音楽の妙がこの映画を一層魅力的にしているといって良い。

 この映画はイタリア製のドキュメンタリー映画である。おそらくヴィンチェンツァでの展示会に際して作成されたもののようだ。
 ゴッホの絵画が中心だがこの映画のミソはその絵画のほとんどがオランダのヘレーネ・クレーラー=ミューラー美術館蔵の出展物であるということである。
 ヘレーネはこの作品のもう一人の主人公といって良い。彼女はゴッホとは直接交流はないが、ゴッホの死後個人でコレクションをし始めた。
 ゴッホが亡くなった1890年からおよそ20年後である。彼女はゴッホの絵画に秘める人間の魂に共感するとともに、ゴッホの手紙や宗教観に共鳴する。そしてついには私費で美術館建造を企画する。約300点もの作品を収蔵する美術館は1938年に完成。しかし実際は彼女の夫の事業の失敗で、最後はオランダ政府の支援で完成したものである。それにしても彼女の執念は相当なものである。
この映画ではヘレーネの手紙などをまじえたストーリーを縦糸に、ゴッホの人生をなぞる。

 この映画で感じたのはゴッホの絵画の変遷である。初期では暗い労働者階級の人々ばかり書いていた。しかし人間が書かれていたが、それは個人としての人間とは感じられない外形的なものである。その彼に刺激を与えたのはミレーである。そして次第に人々の心に分け入るようになる。そんな彼に次の飛躍を与えたのはモンマルトルでの短い生活だ。ここで彼は色彩を得る。そしてさらに大きな飛躍はアルルでの生活である。ここではパリで得た色彩が爆発する、はじけるような輝かしさ。そして最晩年のゴッホの心を現わすような最後の飛躍。オーヴェルニュの教会を見ると、暗澹たる思いにさせられる。オーヴェルニュでの生活で彼は自殺する。
 この作品ではゴッホは自殺したことになっているが、銃創が腹部にあったり、不自然なところもあって、死因ははっきりしないらしい。永遠の門では事故となっていた。
 美しい映像も素晴らしく、おそらく劇場で見たらもっと感銘を受けるだろう。