ぶんぶんのへそ曲がり音楽日記

オペラ、管弦楽中心のクラシック音楽の音楽会鑑賞記、少々のレビューが中心です。その他クラシック音楽のCD,DVD映像、テレビ映像などについても触れます。 長年の趣味のオーディオにも文中に触れることになります。その他映画や本についても感想記を掲載します。

カテゴリ:映画 > 謀略物

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骨太の謀略物といえよう。ヨーロッパ小国が過去の亡霊と現在の政略の中で生きていることをリアルに描いている。フィンランド映画だ。原題は「OMERTA6/12」現題の意味は見ているとわかるが、OMERTA(黙秘と訳されていた)というのはテロチームの名前、6/12は12月6日のことでフィンランド独立記念日(1917年)のことをさす。イルカ・レメスと云う人の書いた小説「6/12」をベースにしている。

  この映画にはコソボ(20年以上前)紛争やフィンランドがロシアに地政学的に近いことからフィンランドの政治の立ち位置がいかなるものかなどが背景にある。

  12月6日の独立記念日、宮殿では国夫妻主催の大晩餐会が開かれている、そこへテロリストたちが襲う。テロリストたちの要求は首謀者のバーサ・ヤンコヴィッチの父親(戦争犯罪人としてフィンランドで刑に服している)ヤンコヴィッチ大佐の解放と国外逃亡だった。しかしこのチームの真の狙いは他にあり、それは某大国の陰謀によるものだった。

  今日ロシアによるウクライナ侵略が行われているが、このことが地政学的に欧州各国を大きく揺さぶっていることは間違いあるまい。特にロシアに接している国々は他人ごとではない。かねてよりロシアに隣接しているフィンランドはNATO加盟に揺れ動いているが、現在は加盟していない。本作ではフィンランド大統領はNATO加盟派として描かれている。またEU軍事委員会委員長のフランス人モレル将軍は超タカ派として描かれていて、宮殿内で拘束される。こういったことからこのテロの黒幕がどこかわかるだろう。

  現場でテロ対策を行うのは、フィンランド警察でありEU合同警察隊である。主人公はEU警察隊(もともとはサイバーテロ対策)のフィンランド人のタナーとスエーデン人のシルヴィアである。
カーチェイスあり、コンバット・シューティングありでそういった切り口でも見どころ満載の作品。この分野の好きな人は見逃せない秀作だ。
  この映画は一瞬たりともボンドシリーズのようなお遊びはない。常に緊迫感をはらんだ2時間。登場人物の一挙手一投足を見失ってはいけない。そして言葉ひとつ一つの意味は時には非常に意味深い。私は2回も見てしまった。



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第二次世界大戦末期、シチリア島攻略作戦秘話である。1943年連合軍は南からナチスを追い立てようとする。しかし、ナチス/ヒットラーは連合軍はシチリア島から攻め上ると読んでおり、分厚い防御線を張っていた。

  一方連合軍、なかんづく、チャーチルはナチスをかく乱して、連合軍はギリシャを攻略すると思わせたい。MI5の長官ゴドフリー(M)はその欺瞞作戦を立案させる。なんとその立案者はあのジェームズ・ボンドを創作したイアン・フレミング(ジョニー・フリン)だというから驚いてしまう。しかしMはフレミングの作戦を荒唐無稽として却下するが、弁護士上がりのユーアン・モンタギュー少佐(コリン・ファース)とその友人チャールズ・チャムリー大尉(マシュー・マクファーデン)は実行を強く主張、作戦は日の目を見ることになる。はたして連合軍はナチスを欺けるか?

  この映画の見どころはユーアンとチャールズの欺瞞作戦の実行の緻密さである。まるでチェスの一手のように、綿密にねり上げて実行する。これはいかにもイギリス人らしい?緻密な作戦だといえよう。この作戦は戦後54年、秘され、その後公開された。のちにノルマンディーかカレーかでも、ナチスは煮え湯を飲むことになるが、イギリス軍のこういう謀略戦の巧みさには感嘆するしかない。まあ引っかかる、ナチスはヒットラーへの権力集中が、情報のスクリーニングを妨げているわけで、戦時体制の差が諜報戦にも表れたといえよう。

  この作品の中でユーアンはなぜ、妻子をアメリカに疎開させたのか?おそらくこの夫婦はユダヤ人のため、ヒットラーのユダヤ人迫害を避けたものと思われるが、1943年のこの時点で、イギリスはナチスに占領されてしまうと、考えてのことなのだろうか?ちょっとわからなかった。
  
  もうひとつ、ユーアンとチャールズの、女局員スージーをめぐる、さや当ては、本当だったのかどうかはわからないが、蛇足としか思えない。まあこれも欺瞞作戦なのだろうか?

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この作品はジェシカ・チャスティン主演の「ゼロ・ダーク・サーティー」の似ていない双子のような作品だ。
  いずれも、アメリカの同時多発テロの犯人追跡を描くものだが、ゼロダークサーティーはダイレクトにビンラディンの居所を執念深く追い求め、最後は暗殺するという話。要するにアメリカが憎きビンラディン討ち取るというアメリカ人中心の映画に対して、モーリニアンはビンラディンとの交信記録らしきものがあるというだけで、モーリタニアから拉致され、14年間もグアンタナモ基地に拘禁された、モハメドゥ・スラヒ(タハームラヒム)とその人権を守る弁護士ナンシー・ホーランダー(ジョディ・フォスター)を主人公とする、アメリカの良心を描いたもの。
  かたや拷問があたかも正当化されたような描き方に対して、「モーリタニアン」はそういう軍の行動に、憲法上の異議がありと、裁判で主張する。まあ同じアメリカ人とは思えないが、興味深い。
ジョディ・フォスターの敵役がカンバーバッチ(スチュアート中佐)だが敵役になりきれないところが、フィクションのように感じる。この2作、並列して鑑賞すると、アメリカ人のやり方がじつによくわかる。スラヒの書いた実録物を映画化したもの。実話である。

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ネットフリックスオリジナルの映画である(2018年)。今年のアカデミー賞でも「マンク」や「シカゴ裁判」がノミネート・受賞するなど、ネットフリックスの作品は目が離せない。
 最近いくつか見ているが、興味深いのは、視点がハリウッドとはずいぶん違うことだ。例えば中東戦争をエジプト側から描いたり、キューバ問題をキューバ側から描く。それも主人公はサダトやカストロではなくごく普通の人々、軍人であったり、外交官であったりすることだ。

 この「ベイルート」もごく普通の外交官が主人公である。舞台は1972年、ベイルート内戦前のまだ美しいベイルートがあったころ。メイソン(ジョン・ハム)はベイルートの外交官の代表をしている、妻とパレスチナ人のカリームという少年を引き取って育てている。しかしこの少年はミュンヘンオリンピックテロ事件の犯人の一人、ラジャールの弟だったのだ。
 そして、この1972年、ラジャールらがカリーム奪回にメイソン邸に侵入する。カリームは奪われ、妻は殺害される。メイソンは失意のまま外交官をやめ、アメリカに戻り、アルコール浸りのすさんだ生活をしていた。

 そして10年後亡霊のようにカリームが現れた。メイソンの友人のカルを誘拐したという。米国NSCはメイソンに交渉人を依頼する。政府代表のガイザー、NSCのルザック、現地工作員のサンディ(ロザムンド・パイク)そしてメイソンと云うチームでカルの救出を図る。

 冒頭書いたようにごくごく普通の外交官が事件に巻き込まれ、内戦後のベイルートに戻る。夢のようなベイルートが、破壊の限りを尽くされた町に変貌していた。そういう時代背景の中での謀略戦。こひねりのきいた佳作である。〆

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最近ネットフリックスと契約してからオリジナル映画を見るようになった。それぞれとても面白い。
アイルランドマフィアを描いた「アイリッシュマン」、イギリス史に残る考古学の大発見をした男の物語「DIG,時の闇」、ボニーとクライド事件と復活した老テキサスレンジャーズの物語「テキサスレンジャーズ」などである。それぞれ実話に基づいた作品であることが共通点である。しかも視点がニッチというか個性的であるのが良い。

 そういう意味でも今回見た「コードネーム・エンジェル」(原題はTHE  ENGEL)も秀逸。中東戦争におけるイスラエルとエジプトの謀略戦を描いている。通常ハリウッドだと、イスラエル側から見た映画になるが、これはエジプト側から見た中東戦争である。

 1967年ナセル大統領率いるエジプトはイスラエルに破れ、シナイ半島およびヨルダン川西岸などを失う。ナセルはロシアと組んででも失地を回復すべきと吠える。
 本作の主人公のアシュラフ・マルワンはナセルの娘婿で、外務省の高官(後になる)である。彼はナセルの息子ながら、ナセルのソ連寄りの政策に反対していて、むしろアメリカに近寄り、アメリカの力で失地を回復すべきと考えていた。そのためには短期的でよいから、反撃し、戦争で勝利をするという実績を作るべきと考えていた。

 やがて、ナセルは急死し、後継者のサダトが大統領になる。サダトはナセルのようなソ連寄りでなく、むしろアメリカ寄りで、次第にサダトはァシュラフを重用してゆく。ァシュラフは戦争をなるべく早く終わらせて、講和に持ってゆけるような諜報戦を考え、サダトの同意を取り付ける。ァシュラフが私生活を犠牲にして、中東の和平を考え行動するさまは英雄行為といって良いだろう。イスラエル側からもエジプト側からも後年評価されたという。

 歴史はカーター大統領の仲介でエジプトとイスラエル和平を見とどけている。2人の首相はノーベル平和賞を受けている。
 歴史に埋もれた人間はあまたいるが、このように丹念に掘り出す作業は清々しい。


 さて、ネットフリックスにくらべて、ツタヤの宅配はあまり良い作品がない。最近2作品を見たが、一稿を起こす気力もないような作品でここについで書きする。
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 一つは「コンタクト・消滅領域」、アフガニスタンのとある谷を挟んでフランス軍(国際平和治安部隊)の中隊が駐屯している。保護している村人たちとはあまり良い人間関係を築けていない。そんな中中隊から次から次へと失踪事件が起きる。つごう4名が行方不明となる。一方明らかにされていないが、村人の中からも行方不明者が出て、お互い疑心暗鬼になるというもの。結末はなんとなくよくわからないが、現代の神隠しらしい。中隊長のとった最後の行為は何とも痛々しいと思うのは私だけかもしれない。

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 もう一つはこれも謀略物。フランスの潜水艦チタン号がシリアから工作員を撤収させる作戦遂行中、異音を発見する。発見したのは音響分析官のシャントレッド、神の耳とも、靴下(靴を履かないで任務に就く)とも呼ばれている若者だ。最初その異音は潜水艦と判断するが、狼の唄声のような異音については最後まで自信が持てる分析ができなかった。結局作戦は成功するのだが、シャントレッドへの信頼は失墜する。
 しかしこの異音の発生源は、ソ連の原子力潜水艦だがすでに廃船になったものだった。それゆえシャントレッドも見逃したのである。しかしそれからしばらくのち、ミサイルがフランス目がけて発射された。発射源はソ連の潜水艦であるという分析の元、対抗のミサイル発射のためフランス側も原子力潜水艦を発進させる。このままでは世界戦争になる。
 そんな中、シャントレッドはこのミサイルは「廃船になった潜水艦」からのものだと分析する。果たして発射はソ連なのか、誰の手の物か?そしてフランス軍の行動はどうなるのか?

 この映画は時代背景がわからない。おそらく現代だと思うが、架空の時代の物語のようでもある。ソ連とフランス(西側)の対立している、冷戦時代かもしれない。そういうことなので、なんとなく絵空事のように思えてならない。フィクションにもそれなりのリアリティは必要かと思うのだが?

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