2020年3月13日
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直木賞受賞作の「熱源」、まるで大河ドラマを見るような「民族の大きな流れ」がその時代の「デファクト」、ここでは「摂理」つまり弱肉強食とどう激突してゆくのか?そしてその結果はどうなったのか?それは今日の歴史を見ればわかることだが、それをサハリンのアイヌとポーランド系リトアニア人に代表させてドラマとしている。
 時代は19世紀末から始まる。サハリン(樺太)から北海道対鹿村に移住してきたアイヌの人々、和人に蔑視されながらもリーダーを中心に文化を保ちつつ生きて行く。しかし天然痘などの疫病により人口は結局大きく減り、元のサハリンに戻ることになる。後に山辺安之助になるヤヨマネフク、父が日本人、母がアイヌの千徳太郎治らが移住してゆき、漁労生活をしつつも、このままではアイヌのアイデンティティが失われるとロシア語を勉強して文明への理解をするとともに、アイヌの文化遺産を残そうとする。

 19世紀末の不穏なロシアの空気の中で政治犯となり15年の刑期を背負って、サハリンに流されてきた、ポーランド系リトアニア人のブロニスワフは刑期を終えるころになると、土着の人々の生活に興味を持つようになり、その研究を通じて、ロシアの民族学会とつながるようになる。
 アイヌのアイデンティティを守ろうとするヤヨマネフクや千徳と文明人としての民族学者としてアイヌ文化に敬意を示すブロニスワフは、サハリンに学校を作りアイヌ人を啓蒙する取り組みを始める。
 しかし、その時代の摂理は時代を大きく動かし、生きている人々の生活を大きく狂わすのだ。日露戦争しかり、ロシア革命しかり、そして第二次世界大戦しかり。そうした時代の流れに登場人物たちは生きて行く、そういう群像劇でもある。
 「Iの悲劇:米澤穂信著」でも思ったが、人間は生まれる場所は選べない、しかし生きて行かねばならないのだ。それを痛感させる作品だ。大変面白く読んだ。
 なお、南極の白瀬中尉や二葉亭四迷、金田一京助、大隈重信らが実名で登場し、歴史ドラマとしても興味深い。巻末に史実をもとにしたフィクションと断っているのは、そういうことであろう。