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N響の定期の代わりの、演奏会。
4月10日(於:サントリーホール)

指揮:三ツ橋敬子
ソプラノ:森谷真理
テノール:福井 敬

モーツァルト
  歌劇「魔笛」序曲
        タミーノのアリア「なんと美しい絵姿」(1幕)
        パミーナのアリア「愛の喜びは露と消え」(2幕)

モーツァルト
  歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」 フィオルディリージとフェランドの二重唱
                    「夫の腕の中に」(2幕)
 
モーツァルト  
  歌劇「イドメネオ」 バレエ音楽「パ・スル」
            イドメネオのアリア「海の外なる胸の内の海は」
            エレットラのレチタティーヴォとアリア(3幕)
                   「ああ私の切望、怒り」~「血を分けたオレステよ」


ヴェルディ  
  歌劇「シチリアの夕べの祈り」 バレエ音楽「春}

マスネ
  歌劇「ウェルテル」オシアンの歌(2幕)




  歌劇「タイス」 鏡の歌
          タイスの瞑想曲

プッチーニ
  歌劇「蝶々夫人」1幕の愛の2重唱

オペラ界の2人の実力者による、オペラアリア集。いずれも名曲であり、オペラの公演が減っている中楽しい公演だった。N響は良心的でというより自粛指示を守っており、座席は一つ置きになっていて安心して聴ける。他の団体もまねしてほしい。定員は守っていても、席は密になっているケースがほとんどである。定期をすでに売っているので致し方ないのだが!

  さて、今日のプログラムはどれも良かったが、少し触れると、2人の経験や声からみて、プッチーニが最も素晴らしい歌唱だった。特に森谷はこの曲を自家薬籠中のものにしているかのように、終始余裕があり、若きちょうちょうさんの純粋な気持ちを歌い上げていた。
  福井は他の曲もそうだが、すべて福井の濃厚な声で歌われており、どれを聞いても福井が出てくるという塩梅だ。しかしこのピンカートンはキチンと折り目正しく歌われたピンカートンだ。たとえは悪いがバースタインの「ウエストサイドストーリー」の「トゥナイト」をホセ・カレーラスが歌った(相手はキリ・テ・カナワ)ような印象だった。おそらく新国立に出てくるイタリア人の若いピンカートンはこのようには歌えないだろう。

  二人のモーツァルトはあまりいこごちが良いとは言えない。特に「魔笛」はもう少し2役とも軽くピュアな声が欲しい。ただ「コシ・ファン・トゥッテ」の2重唱はよかった。
  イドメネオも福井はやはり少し重いが、この福井のスタイルで押し切る実力は侮れない。森谷のエレットラはもう少しパワーがないと、エレットラの深い怒りが伝わらない。

  福井のオシアンの歌は熱唱、ただすべての曲で感じたのだが、福井の声はどんどん重くなっているような気がするので、この歌には向かないように思った。

  三ツ橋の指揮は初めて聴いたが、「魔笛」の序曲から素晴らしい勢いを感じる演奏だ。音の切れが良いから、ステージから楽器の音がポンポン飛んでくる感じで、実に聴いていて気持ちの良い音だ。N響は定期ではNHKホールで聴いているが、弦の響きや金管の鋭さなど不満が多い。今夜はそういうホールの不満がなく、音楽は良く響き、それに三ツ橋のりりしい音楽つくりの相乗で素晴らしいサウンドを聴けた。

  ちょっと追記すると二人の歌手に不満があってこのブログ書いたのではなく、この二人の歌唱の水準は十分高いと思うのだが、しかし私たちは例えば「魔笛」ではカラヤン盤のマティスとアライサを聴いているので、つい比べたくなるのだ。ご容赦いただきたい。結論的にいえばとても楽しんで帰宅し、コロナの不安も忘れ、久しぶりに熟睡した。

  なお本当に些細なことだが、三ツ橋の棒はアリアが終わるとしばらく停止してしまい、拍手のタイミングが難しい。こういうリサイタルは歌手が主役だから、棒はさっと振り抜いて曲を終えるしぐさをしてもらいたいものだ。なんとなく歌手が手持ち無沙汰になるのが、聴いていて、居心地がよくない。些細なことです。〆