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昔、学生のころ初めてマーケティングというものを勉強をした。そのとき、ある本か、教授の授業でか、印象に残った言葉がある。「市場では一歩進んだ製品では顧客はついてこない、半歩進んで初めて顧客が買おうとする」。
この映画の主人公ガレス・ジョーンズ氏(原題はMR.JONES)は世の中より一歩進んだ男だった。
この映画を見ていて、昔のマーケティングの授業を思い出した。

 ガレス・ジョーンズはケンブリッジを卒業した故郷のウエールズの町では優秀な男として知られた男だった。ただどうも希望の外交官にはなれなかったようだ。しかしロイド・ジョージの外交顧問になり、ヒトラーがドイツで頭角を現しだした頃に彼の自家用機でインタビューしたことで知られていた。

 しかしジョーンズのヒットラーに対する評価は外務省などでは全く相手にされず、外交顧問を解雇される。ジョーンズの考えはやがてヒトラーは独裁者となって戦争を仕掛けてくる、その時重要なのはソ連であるというところにあった。ソ連の実情はベールに隠されていて、工業化の成功、軍需産業の勃興など経済面での成果が高く評価されていて、大恐慌で疲弊していた西側諸国では注目されていた。

 しかしジョーンズはソ連の経済の成功の源資はどこにあるのか、スポンサーはあるのか、と疑問を持ち、ジャーナリストとして単身ソ連に乗り込む。そこで目にしたソ連の実情は思いもよらないものであった。

 「動物農場」で有名なオーウエルを登場させ、その物語を挿話としてはめ込んで、ジョーンズの推論を描くが、世論はソ連を敵に回すことを恐れていた。

 歴史の1ページを切り取った実話から作られた映画である。いまでこそあの時代のソ連の餓死者はおびただしいものであったことは、世の中に知られているが、その当時は全く闇の中だったのだ。人の命と大義、大国の思惑で翻弄される人又人。これはその後もいくつも歴史として繰り返される。そういう意味では、人類が登場して数々の歴史が残されているが、この作品は、その歴史を鵜呑みにしてはいけないという、縮図である。