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「天離り果つる国 」あまはつりはつるくにと読む。空のかなたに遠く離れた辺境の地と云う意味だそうだ。今日では観光地として有名だが戦国時代はそういう位置づけだった、飛騨の国、白川郷がこの作品の舞台である。この地は山深く、そして冬は雪に閉ざされてしまい、外敵から守られる。しかし幸か不幸か、この地には黄金とそして火薬の原料として欠かせない塩硝を産するのだった。それに目を付けた織田信長、そして豊臣秀吉がこの辺境の地をほっておくことはなかったのである。そういう舞台設定である。
 この地には帰雲山というのがかつてあり、その麓には帰雲城があり、内ヶ嶋氏理と云う武将が支配をしていた。この物語はこの平和で穏やかな里を外敵に襲われない、独立した地域として守ろうとした人々の物語である。戦国時代のユートピアが果たして可能だったか、上下2冊の中にたっぷり書き込まれている。
 この作品を読みながら思い出したのは小学生のころ見た東映の新諸国物語「笛吹童子」である。あの映画には帰雲城のような秘境の城があったし、氏理の娘(紗雪)のような美少女も出てきたし、竹中半兵衛の弟子の七龍太(七郎太)のような美少年も登場した。またこの小説に登場する下野頼蛇などというおどろどろしい名前の人物らしい悪役も登場した。
 この小説のしかけはなるほど戦国の英雄の信長や秀吉や家康らが登場するが、話の底流に流れるのは私が胸躍らせて食い入るように見た東映の時代劇の世界ではないかと思われるのである。あのころの中村錦之助、東千代之介、千原しのぶ、高千穂ひずるらの東映の俳優たちは私のアイドルだった。そういう人々に思いをはせながらこの長巻を楽しく読んだ。