2019年6月28日
fuuma

「風魔と早雲」、東郷 隆著、H&I
時代は応仁の乱後五年目の1483年(文明15年)から明応大地震のあった1498年(明応7年)までを描く。話の骨格は北条早雲の国盗り物語であるがそれに風魔の小太郎と云う幻術者・催眠術者が絡むところが本書のミソだろう。風魔の小太郎と云うのはどうも実在の人物らしいが、本書で描く術は創作だろう。小太郎と不思議な縁をもつ女幻術者’野分’の使う諸術の描写を読むと、これは歴史小説と云うより怪奇幻想小説ともいうべき独特の印象を与える作品だ。さらに面白いのは随所にちりばめるトリヴィアな解説である。人物や場所、建物など話の合間に出てくると司馬遼太郎のようにそれについての解説のような一節が必ず出てくるのだ。そして小説全体をさらに生き生きさせるのが当時の武士や庶民が歌い踊る、その歌についての引用である。
 主人公が北条早雲と風魔の小太郎と分割されるきらいがないとは言えない。また後半小太郎が早雲から離れた後は急に小太郎の影が薄くなるのも物足りないが、独創的な歴史小説として注目すべき作品であることは間違いあるまい。