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著者の作品は「リボルバー・リリー」と「マーダーズ」を読んできた。このうち第1作の「リボルバー・リリー」は時代設定も、主人公も、そして現代のチャンバラともいうべき、激しい銃撃戦と逃避行。その独創的な内容はとても印象に残った。「マーダーズ」は私には少々未消化のところがあった。

 さて、第3作の「アンダードッグス」、これはまた前作らとは異なったスタイルで、大変面白かった。謀略物であり、サバイバルものである。また時代設定も今作はとても面白く独創的である。

 舞台は香港、時代は香港が中国に返還される直前の1996年末から1997年の春節までを描く。
主人公はもと農水省の官僚、今は証券マンの古葉圭太、彼は農水省の裏金事件と云う不祥事の責任を取らされ、役所をやめ、現在の証券会社に勤めている。ある日彼のクライアントである大富豪のマッシモ・ジョルジアンニと云う人物から面談を申し込まれる。面談の内容は1997年の香港返還のタイミングで香港の恒明銀行に預けられているフロッピーやら書類やら、アメリカの政財界人の不正蓄財の証拠を盗めという奇想天外のものだった。これはマッシモのかたき討ちであることが次第にわかってくる。具体的には古葉がリーダーに多国籍のメンバーでそれを実行せよというもの、多額の報酬が約束されていた。古葉は不祥事の追及をいまだ引きずっておりそれを引き受けることにした。そして香港にわたるが、彼と組むメンバーはいずれも過去に瑕を持つアンダードッグ(負け犬)だったのだ。

 ここからは、米、英、露、中が入り混じり、裏切りの数々、そして次から次へと明るみに出てくる真実、その中で素人も同然の古葉がどう立ち廻り、生き残るかがこの小説の肝である。
 構成としては1997年の銀行からの書類の奪還という古葉を中心にした話と、2018年の古葉の娘の瑛美の数奇な物語が交錯する。登場する人物の性格付けはあるものはステレオタイプということもないとはいえないが、多くは大変魅力的に描かれている。特に中国人のアニタ・チョウには魅かれる。
 これはリバルバーリリーを超えた、アクション巨編である。このジャンルの好きな方は必見。