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2019年5月28日

「菊とギロチン」、東出昌大、木竜麻生、筧 一郎主演

なんとも不思議なタイトルの映画。ロクヨンの瀬々敬久監督の作品である。ストーリーはオリジナルのようであるが、実在の人物も登場し、その時代感は色濃い。

 タイトルの菊とはヒロインの女相撲とりのしこ名「花菊」(木竜)からとられている。おそらく菊とは大日本帝国も表しているのだろう。舞台は関東大震災の直後、大正12年(1923年)である。そのころはまだ女相撲があって、東北地方を中心に数十もの団体があったそうだ。1960年ごろまでは興行を行っていたそうだ。花菊の所属するのは玉岩一座で、数十人の女相撲とりらの集団だった。
 花菊は姉の嫁ぎ先に姉の死去に伴って後妻に入るが、その相手がとんでもないDV男で、逃げ出して相撲一座に潜り込む。強くなりたい一心でけいこに励む。強くなってDV男から自由になるのが夢だ。そのほかこの一座には花菊のように夫から逃げ出してきた女や震災の時の朝鮮人の虐殺から逃れて来た女、琉球の女など皆何かを背負った女ばかりだ。

 映画タイトルの片割れのギロチンとはアナーキー集団のギロチン社を言う。実在の団体である。リーダーの中浜 鉄(東出)や古田大次郎(筧)らも実在の人物である。テロにより社会の転覆を狙って、自由平等の社会を目指すが、やってることと云えばブルジョワにたかって小金を略取すること。大杉栄のかたき討ちだと、威勢はいいが、失敗してどうも云うこととやることが違う口先集団。

 映画はこの2つの集団が邂逅する。この部分はフィクションだろう。アナーキストの中浜と古田、そして女相撲の花菊と朝鮮人の十勝川らが混ざり、これら若者の生きざまを描く。青春群像ドラマである。この映画の面白いのは先にも述べたが、大正12~3年という時代感が色濃く出ているところだろう。私はむしろそちらに惹かれた。
 第一次大戦の好況も終焉を告げ、世の中は不景気へ、そこへ追い打ちをかけるような関東大震災、そして干ばつによる不作、もう大恐慌は目の前であり、在郷軍人会による訓練も始まり、日本は軍国主義国家を目指し、次の大戦がもう目の前というそういう時代。しかしまだ戦時中の閉塞感まで至っておらず、若者たちには自由をめざすかすかな希望が持てた、最後の時代、映画はそういう舞台を私たちに見せてくれる。

 180分を超える長尺ものだが飽きさせない。万人向きとは言えないが面白く見た。