2018年9月22日
於:サントリーホール(1階11列右ブロック)
東京交響楽団、第663回定期演奏会
指揮:ユベール・ズダーン
ヴァイオリン:堀米ゆず子
ハイドン:交響曲第100番「軍隊」
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第四番
ベートーヴェン:交響曲第六番「田園」
クラシックの王道を行く3人の作曲家から、1曲づつの選曲。定期公演でこういう名曲コンサート風のプログラムは珍しい。大体定期となると1曲くらいかっこつけて、現代音楽や、だれも聴いたことのないような音楽を引っ張り出して、聴き手の「蒙」を「啓」いてくれるわけだ。しかしズダーンが考えたのかは不明だが、今夜のようなプログラムを衒いもなく設定する「勇気?」に拍手したい。まあたまには肩の力を抜いて音楽を楽しみたいではないか?
しかし、今日のズダーンの演奏は相当見事なものである。彼が常任の時に最も素晴らしいと思ったのはシューベルト交響曲全曲演奏会である。特に前半の6曲は今まで聴いたことのないサウンドと音楽造形で若きシューベルトのこの交響曲群が単なる習作ではなく、それぞれ十分存在感のある曲だと教えてもらったのである。それ以来注目している指揮者である。彼のスタイルはピリオド奏法ではないが、かといって伝統的な演奏スタイルともいささか違う。弦はノンビブラートのようにきりっとして透明だし、各パートはどんなに大きな音を出しても混濁しない。金管も遠慮会釈なくバロック風に吹き鳴らすし、ティンパニは思い切り乾いた音で、常に存在感を表す。そういうスタイルは今日の演奏でも感じられれた。
今日の「田園」を聴いていて、常任のころの彼のそういう音楽つくりのいくつかを思い出した。「田園」では2楽章が実に素晴らしい。それは淡いトーンで、絵でいえばまるで水彩画か印象派を思わせる雰囲気である。全体に淡いベースのサウンドの中で、弦はピンと張りつめているが、うるさくないから、アクセントとして効いている。しかもそういう淡いなかで、弦とともに存在感を発揮したのは木管群、オーボエとフルートの掛け合い、クラリネットとファゴットとの掛け合いが、淡いトーンの中から高弦のきりりとした音とともに浮かび上がってくる。なんとも素敵な音楽だ。
そして、3楽章~4楽章はそういうムードはかな切り捨てて、荒々しい音楽になるが、ここでも田舎の人々の踊りでの木管の掛け合いも見事なもので一服の清涼剤になっている。
演奏時間は45分、反復も行っているのでかなり早い演奏だが、カラヤンのようなスポーツカーでアウトバーンを駆け抜けるような、速さとは質の違う、肌触りだった。これは多くの人に聴いてもらいたい「田園」だ。
「軍隊」は遊び心満杯の、おおらかな演奏である。特に2楽章と4楽章のおもちゃ箱をひっくり返したような打楽器の騒々しい音は楽しい。ティンパニは電電太鼓のようにぱんぱん云っているし、大太鼓は左手にもったスティックを大太鼓のフレームにかんからかんから打ち付けるのである。演奏時間は24分
堀米ゆず子をソロに持ってきたモーツァルトはまた一味違う。これは宮廷音楽風の実に「雅」な音楽に聴ける。オーケストラの数もベートーヴェンの半分以下に絞り、室内オーケストラ風になっている。堀米のヴァイオリンは豊かなヴォリューム感と繊細さを兼ね備えたもの。個人的にはカルミニョーラのきりっとしたヴァイオリンのほうが好きだが、これはスタイルの違いだから仕方がない。この極上の響きに浸っていればよいという音楽もたまには良いのではないかと思わせる演奏だった。演奏時間は22分。
〆
於:サントリーホール(1階11列右ブロック)
東京交響楽団、第663回定期演奏会
指揮:ユベール・ズダーン
ヴァイオリン:堀米ゆず子
ハイドン:交響曲第100番「軍隊」
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第四番
ベートーヴェン:交響曲第六番「田園」
クラシックの王道を行く3人の作曲家から、1曲づつの選曲。定期公演でこういう名曲コンサート風のプログラムは珍しい。大体定期となると1曲くらいかっこつけて、現代音楽や、だれも聴いたことのないような音楽を引っ張り出して、聴き手の「蒙」を「啓」いてくれるわけだ。しかしズダーンが考えたのかは不明だが、今夜のようなプログラムを衒いもなく設定する「勇気?」に拍手したい。まあたまには肩の力を抜いて音楽を楽しみたいではないか?
しかし、今日のズダーンの演奏は相当見事なものである。彼が常任の時に最も素晴らしいと思ったのはシューベルト交響曲全曲演奏会である。特に前半の6曲は今まで聴いたことのないサウンドと音楽造形で若きシューベルトのこの交響曲群が単なる習作ではなく、それぞれ十分存在感のある曲だと教えてもらったのである。それ以来注目している指揮者である。彼のスタイルはピリオド奏法ではないが、かといって伝統的な演奏スタイルともいささか違う。弦はノンビブラートのようにきりっとして透明だし、各パートはどんなに大きな音を出しても混濁しない。金管も遠慮会釈なくバロック風に吹き鳴らすし、ティンパニは思い切り乾いた音で、常に存在感を表す。そういうスタイルは今日の演奏でも感じられれた。
今日の「田園」を聴いていて、常任のころの彼のそういう音楽つくりのいくつかを思い出した。「田園」では2楽章が実に素晴らしい。それは淡いトーンで、絵でいえばまるで水彩画か印象派を思わせる雰囲気である。全体に淡いベースのサウンドの中で、弦はピンと張りつめているが、うるさくないから、アクセントとして効いている。しかもそういう淡いなかで、弦とともに存在感を発揮したのは木管群、オーボエとフルートの掛け合い、クラリネットとファゴットとの掛け合いが、淡いトーンの中から高弦のきりりとした音とともに浮かび上がってくる。なんとも素敵な音楽だ。
そして、3楽章~4楽章はそういうムードはかな切り捨てて、荒々しい音楽になるが、ここでも田舎の人々の踊りでの木管の掛け合いも見事なもので一服の清涼剤になっている。
演奏時間は45分、反復も行っているのでかなり早い演奏だが、カラヤンのようなスポーツカーでアウトバーンを駆け抜けるような、速さとは質の違う、肌触りだった。これは多くの人に聴いてもらいたい「田園」だ。
「軍隊」は遊び心満杯の、おおらかな演奏である。特に2楽章と4楽章のおもちゃ箱をひっくり返したような打楽器の騒々しい音は楽しい。ティンパニは電電太鼓のようにぱんぱん云っているし、大太鼓は左手にもったスティックを大太鼓のフレームにかんからかんから打ち付けるのである。演奏時間は24分
堀米ゆず子をソロに持ってきたモーツァルトはまた一味違う。これは宮廷音楽風の実に「雅」な音楽に聴ける。オーケストラの数もベートーヴェンの半分以下に絞り、室内オーケストラ風になっている。堀米のヴァイオリンは豊かなヴォリューム感と繊細さを兼ね備えたもの。個人的にはカルミニョーラのきりっとしたヴァイオリンのほうが好きだが、これはスタイルの違いだから仕方がない。この極上の響きに浸っていればよいという音楽もたまには良いのではないかと思わせる演奏だった。演奏時間は22分。
〆