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2018年3月26日
於:サントリーホール(1階17列中央ブロック)

東京都交響楽団、第850回定期演奏会Bシリーズ
指揮:エリアフ・インバル
ピアノ:アレクサンドル・タロー

ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第二番

ベルリオーズ:幻想交響曲

インバルはもう80歳を超えているはずなのに、元気いっぱい。速足で登壇する姿は少々わざとらしいが、ほほえましい。終演後の聴衆の歓声を聴くとますます日本で指揮を続けたくなるだろう。彼のマーラーは実に素晴らしいもので、これは何度でも聴きたいものだ。チクルスをもうひとサイクル回してほしい。

 さて、今日の幻想交響曲、インバルの事だから、もう少し標題に合わせて煩わしいほど音楽を動かすかと思いきや、案外とストレートなので肩透かし気味である。先日東フィル/ミュンフンの演奏のほうが標題的には面白い演奏だった。しかしインバルの音楽は云い方は悪いが、オリジナルより高級な音楽に聴こえる良さがある。このベルリオーズの失恋話をまともに演奏すれば相当えぐい曲に聴こえるだろうが、インバルの手にかかるとそうはならないところが独自性だろう。レコーディングのためでもなかろうかと思う。
 音楽の演奏スタイルはミュンフンと一緒である。1-2楽章はセットで演奏、4-5楽章もセット、そして、少し前後にインタバルを置いて3楽章を独立させている。
 1-2楽章は幾分さらっとした演奏だ。マーラーなどでの大きなテンポ変動などが比較的少ないので、恋人同士の愛の燃え上がりは、ホットには伝わらない。ベルリオーズの片思い?と思わせる印象だ。
 3楽章は冒頭から陰鬱である。もう始めから別れ話で、これは別れの辛さを綴った音楽に聴こえる。今日の演奏では最も共感できた部分だ。木管など都響の演奏も印象に残る。
 4-5楽章の迫力はさすがなものだ。5楽章の打楽器群や4楽章の金管群は特に精彩をはなっているが、全体に少し醒めた印象は、この恋愛ドラマを客観視していたためだろうか?私のような聴き手がこの音響の渦に感情移入とともにはちょっと入りにくかった。演奏時間は48分

 ショスタコヴィチのピアノ協奏曲は1957年初演だそうだ。約20分の短い曲だで、実に聴きやすい音楽だ。特に2楽章の美しさはショスタコヴィチには珍しい?ラフマニノフばりの甘い調べだ。特にこの最初の主題を聴いて美しいと思わぬ人はいないだろう。それはしかし聴き手の心の状態によっていくらでも感じ方が変わってくるという、器の大きな音楽なのだと思う。息子のマキシムのために書いた曲らしいが、自らが何度も演奏したというから、気に入っていたのかもしれないし、時代もこういう音楽を受け入れていたのであろうか?
 アンコールには本楽章をリピートしたのもよくわかる音楽だ。1楽章はショスタコーヴィチらしい諧謔的なもの、そして3楽章はピアノの名技性を誇示したもので聴きごたえがある。
 タローというピアニストは初めて。登場した時には針金みたいに痩せていて、インバルの半分もないような薄さだが、出てきた音は明快で力強いタッチで驚いた。