2016年4月27日
於:東京オペラシティ(1階17列左ブロック)

東京フィルハーモニック・オーケストラ、第101回東京オペラシティ定期シリーズ
指揮:ミハイル・プレトニョフ
語り:石丸幹二

ソールヴェイ:ペリト・ゾルセット(ソールヴェイはノルウエイ語で日本では従来ソルヴェーグと云われている)
ペール・ギュント:大久保光哉
アニトラ:富岡明子
合唱:新国立劇場合唱団

先日のノット/東響の意欲的なプログラムに続いて在京オーケストラの力の入ったプログラムである。東フィルの新シーズンの開幕に相応しい。
 グリーグといえば私にとってはペール・ギュントかピアノ協奏曲くらいしか思い浮かばず、それも近年ではほとんど聴かない。ものの本によればグリーグの歌曲やピアノ独奏曲に素晴らしい曲があるそうだがそこまで手が回らない。そしてペーギュントと云えばまあ組曲程度が時折定期演奏会で聴く程度で、まさか全曲26曲が定期公演のプログラムにのるとは思わなかった。全5幕で演奏時間は140分であったが、終演時間はなんと21時43分、定期演奏会では異例な長さである。前半に1~3幕、15分の休憩後後半は4~5幕が演奏された。今夜の演奏はこのイプセンの劇の部分は石丸の語り(日本語)で音楽と音楽の間のつなぎの様な形で挿入される。合唱やソロは原語で歌われ、字幕付きである。
 石丸の語りはおいておいて音楽について云えばほとんどが組曲でおなじみの音楽で全く退屈しなかった。全曲版と組曲との対比を見ると以下の様になる。
 2幕第4曲:イングリの嘆き(第二組曲)
 2幕第8曲:山の魔王の宮殿(第一組曲)
 2幕第9曲:山の魔王の娘の踊り(第二)
 3幕第12曲:オーセの死(第一)
 4幕第13曲:朝の清々しさ(いわゆる朝の気分)
 4幕第16曲:アニトラの踊り(第一)
 4幕第19曲、5幕第23曲:ソルヴェイの歌(第二)なお今夜の公演では19曲ソルヴェイの歌と20曲メムノン像は入れ替わって演奏されている。
 5幕第21曲:ペールギュントの帰郷(第二)

 ちょっとクラシックをかじったことのある方でペールギュント組曲を一曲も聴いたことない方はあまりおられないのではないかと思う。この組曲の音楽は全て美しく、甘い調べで聴き手を魅了する。コンサートでも部分的に聴くが例えば朝の気分などは実に素晴らしい音楽に聴こえ楽しいが、はてさてこの様な曲を26曲も聴かされてしまうと云う段になるとちょっと引いてしまうのではないだろうか?しかしそこは才人プレトニョフのこと、そうはならないのである。例えば「朝に気分」、「オーセの死」などオーケストラだけの部分は決して甘美に、感傷的に走らないのである。最低限の格調を保って演奏しているからものすごく高級な音楽に聴こえるのだ(失礼)。またソプラノが歌う19曲、23曲のソルヴェイの歌はオーケストラとソプラノの声が実に透明で音楽に気品を感じる。特に23曲は弦だけで歌われる短い音楽だが、が更に一層それを感じるのである。また第8曲の山の魔王の音楽も決して羽目を外すことはないのであることも付け加えなくてはいけない。
 歌手たちは特にソルヴェイを歌ったゾルセットが素晴らしい。プレトニョフのオーケストラに合わせてすこぶるつきの透明感のある声は印象的だった。ヴィブラートが少ない歌い方の様に聴こえた。その他の邦人たちはそれに比べるとちょっと様式的に違うのではと思われる歌唱だった。合唱は力演。
 石丸の語りはマイク付きである。このオペラシティのコンサートホールは残響が長いように思うが、そこでマイク付きになると少し聴きとれない部分がでてくる(私の場合です)。語りは全曲の1/3ほどを占めるものでこの部分はもう少しはしょっても良いのではなかったろうか?と終演後思ったが、しかしそうするとイプセンの劇の内容が聴き手に伝わらないおそれもでてくるかもしれないしなかなか難しい。個人的に云えば語りをなくして字幕で補強し、全26曲のみを演奏した方がプレトニョフの音楽作りを更に集中して楽しめたのではないかと思った。
 東フィルは新国立のピットでおなじみであるが、今シーズンからオペラシティの定期を聴くことにした。そのかわり新日本フィルをやめてしまった。オペラシティで続けて音楽を聴いてみたいと云う衝動がそういうことになったのである。この美しいホール、内装も、音も実に美しい。今夜の東フィルの響きも美しく、力強い。各楽器の透明感も聴きとれ初体験のペールギュント全曲を楽しませてもらった。ただ終演時間が22時に近いと云うのは一考を要するような気がした。オペラ1曲に匹敵する演奏時間であるから、開始を18時半にするとかの工夫が必要ではなかったろうか?
〆