2016年3月26日
於:オーチャードホール(1階22列右ブロック)

山田和樹/日本フィル、マーラーチクルス第六回
武満 徹:ア・ストリング・アラウンド・オータム

マーラー:交響曲第六番

山田のマーラーチクルスの第6曲目目、おそらくこれが今のところ最良の演奏だと思う。最大の要因は音楽に全く停滞感のないところだ。演奏時間は決して短くない、むしろ古今の名演奏たちの中でも遅い、86分である。しかしこれは終わってなんぼであって、聴いているときはまったくその遅さを感じない。それは音楽が実によく流れており、不自然なところはほとんどないと云うことからきているのではあるまいか?この曲はマーラーによる英雄の生涯であるが、ここでのマーラーは老成したマーラーでなく、若く、きびきびとして、実に溌剌としている。特に1楽章、流石に4楽章は力尽きる様が描かれているがこれは十分戦った後のこと、暗澹たる気持ちよりも良く戦ったすがすがしさを感じたのである。これは山田が「一番」を演奏した時の姿勢に帰った様に思われる。あっちこっちきょろきょろしないで一直線に音楽は終結に向かう潔さを感じる。

 1楽章の最初の主題は力強く、音の刻みが鋭く、マーラーの戦いの姿勢が感じられる導入である。この主題の表現は終始攻撃的であり、若々しく、溌剌としている。展開部では特にそうで、この主題は常に生き生きとして、停滞感がなく、前進をするのである。それに対してアルマの主題はすこぶるやさしく、美しい。しかし決してべたべたとした情感過多にならないすがすがしさがなんとも素晴らしい音楽になっている。終結部の迫力は如何にも若々しく、山田の等身大の音楽になっているのが好ましい。
 2楽章にスケルツオ~トリオを配している。この部分は実に整理整頓のゆきとどいた演奏で、このややこしい音楽を、明確に聴かせている、反面グロテスクさには欠けていいるが、私はこう云う山田の演奏のほうが好きだ。
 3楽章はおそらく今日のベストだろう。特に最後にオーボエが主題を奏した後大きく盛り上がる部分の素晴らしさは言葉ではいいあらわせないほどだ。ここでの指揮者の共感の高さは聴衆を大いに惹きつけたと思う。
 4楽章の導入の部分は少しいじり過ぎていると思うが主部に入ってからの戦いの音楽は1楽章を彷彿とさせる音楽で、終結まで一直線に進む。ハンマーは2回である。ハンマーまでの道のりでも決しておおみえを切ったりしないでストレートに音楽を進めるのがとても良い。2度目のハンマーのあとの最後の凱歌の盛り上がりの部分の素晴らしさ、若き山田の真骨頂がでた部分、小細工のない、溌剌とした、音楽だ。終結部の余韻は上記のとおりだ。

 この数年でこの曲はライブでインバル、ハーディング、カンブルラン、佐渡、メッツマッハー、アシュケナージで6回聴いているが、そのうちアンダンテ楽章を2楽章にもって来ている演奏と3楽章にもって来ている演奏の比率は50:50である。昔は3楽章にもってきた方が良いと思っていたが、最近は2楽章のほうが良いと思っている。それは戦った後の慰めの音楽がアンダンテだと思うからである。なお、CDではアバド、バースタイン(新)が2楽章、ティルソン・トーマスが3楽章である。なお演奏時間はライブ、CD合わせて最も長いのがバーンスタインの新盤で88分である。最も短いのはライブでアシュケナージ/N響の72分である。山田の86分はティルソン・トーマス/サンフランシスコ盤とほぼ同じ演奏時間である。ちなみにティルソン・トーマス盤は今最も気に入っている録音である。録音も秀逸である。

 武満は弦楽とヴァイオリンソロによる音楽である。これは弦楽アンサンブルがすこぶる美しい曲で、演奏も日本フィルの水準の高さを物語っている。全体に今日の日本フィルの演奏はとても素晴らしい。特に弦楽部分のみずみずしさが印象に残った。金管と弦楽との音バランスも非常にとれていて、ピラミッド型の素晴らしい音場を聴くことができた。