2013年10月15日
於:東京文化会館(1階17列中央ブロック)
 
プラハ国立歌劇場来日公演
モーツァルト「魔笛}
指揮:ズビネく・ミューレル
演出:ラディスラフ・シュトルス
 
ザラストロ:ズデネック・プレフ
タミーノ:マルティン・シュレイマ
夜の女王:エリカ・ミクローシャ
パミーナ:レンカ・マーチコヴァー
パパゲーノ:ダニエル・チャプコヴィッチ
パパゲーナ:ユキコ・シュレイモヴァー・キンジョウ
プラハ国立歌劇場管弦楽団、合唱団他
 
魔笛は何度聴いても、苦手なオペラだ。音楽は美しい部分もあるが、2幕の冒頭など退屈だし、タミーノの試練の場面も面白くない。大体途中で正邪が入れ替わるなんて台本はついてゆけない。でもいつかは開眼するのではないかと思い、なるべく機会があれば接するようにしている。
今夜のプラハは正直あまり期待していなかった。ただプラハはモーツァルトに縁のある劇場なのでもしかしたらと思いながら劇場に赴いた。
 結果は期待以上、このオペラを聴いてこれほど感動したのは初めてだった。理由はなんだろうか? さて、これはというものは思い浮かばないのである。でも2幕のフィナーレなどを聴いていて、幸せな気持ちで胸が一杯になる。どうしてだろう?歌手は正直云って先日聴いた新国立での公演とそう差がない。でも新国立の公演はこれほどの気持ちにはさせてくれなかった。演出はオーソドックスなもので、ト書きを大きく逸脱するものではない。これは音楽に集中できると云う意味で、良かったと思うが、決め手ではない。オーケストラは小編成で、序曲など音が薄くて大人しいのだ。もしかしたら古楽奏法かもしれない。うーむ、これかもしれない。歌に付けているオーケストラの響きはとても暖かく、自然な流れで、モーツァルトの音楽を生み出している。そうまるで今夜のオペラはモーツァルトが指揮しているようだ、といったら言い過ぎだろうか?音楽がひとりでに流れ出しているようなそういう演奏なのだ。しかもなぜか聴いていてとても懐かしい音楽なのだ。懐かしいと云うのは何かの対象があって懐かしいのであるが、不思議なことにこの音楽を聴いていて、何に対して懐かしいのか、思い浮かばないのだ。でも懐かしい。
 素晴らしい場面はたくさんあるが、7番のパミーナとパパゲーナとの2重唱がこれほど、人を感動させる音楽だと云うことが初めて分かった。二人が「気高い愛を目指すところは~」と歌う部分はなぜか胸が締め付けられるよう。20番のパパゲーノのアリアも素晴らしい。歌い手も良いが、オーケストラが素晴らしい。グロッケンシュピールがこれほど生き生きと鳴った演奏は初めてだ。本当に我ら凡人はパパゲーノに感情移入できるのだ。
 21番フィナーレの「パ・パ・パ・パ~」のパパゲーノとパパゲーナの2重唱を聴いてて幸せな気持ちにならない人はいなだろう。もう胸が一杯になり涙腺も緩む。その他あげたらきりがない。
 歌手で素晴らしかったのはパミーナだ。この美しい声はパミーナにぴったり。ついでパパゲーノも役に相応しく、軽妙な歌唱で観客を魅了していた。夜の女王は少々線は細いはまずまず。タミーノはリリックなのはよいが、もう少し男なんだから力強くても良いのではないかと思った。ザラストロは不安定なような気がしたが、気のせいかもしれない。その他モノスタトスは少々物足りない、3人の侍女もアンサンブルが冴えないように思った。
 オーケストラは上記のとおり、1stヴァイオリンが6丁の小編成、薄い響きだが、それが逆にこの曲に新鮮でしなやかな息吹を感じる。演奏時間は1幕は63分、2幕は予定は80分だが少々短いと思う(測定を忘れました)
 装置は簡素なもので舞台に横長の階段があり、それに5本の巨大な柱が乗っている。それだけである。1幕はパミーナとタミーノの巨大な頭部が天井から吊り下げられれている。
 演出も奇をてらったものはない。最後の「ぱ・ぱ・ぱ~」では未来の子供たちが登場して踊りだすぐらいがちょっとお遊びと云った具合。だから全く音楽の邪魔にならず、音楽に集中できた。オペラは絶対こう云う演出が良いのである。
 台風接近前日、ほぼ満席だったが、皆さんも満足したのではないだろうか?        〆