2012年11月23日
於:新国立劇場(1階11列中央ブロック)
 
プッチーニ「トスカ」新国立劇場公演
指揮:沼尻竜典
演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ
 
トスカ:ノルマ・ファンティーニ
カヴァラドッシ:サイモン・オニール
スカルピア:センヒョン・コー
スポレッタ:松浦健 他
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー管弦楽団
 
2000年初演の演出の再演である。本劇場では2009年以来である。もうこの演出を何回見てきただろうか?そのたびに感心するのは、全てにわたってオーソドックスであるということだ。演出から、装置、衣装などである。特に装置の素晴らしさは特筆ものだ。1幕の幕切れの教会のミサのシーン(礼拝堂から大伽藍への場面転換の見事さも忘れられない)、3幕のサンタンジェロ城の屋上と牢屋の素早い転換。舞台がゼッフィレリのボエームのように二階建てになっているのである。などなど枚挙のいとまがない。その割には歌で圧倒されたと云う記憶があまりない。装置の立派さに負けてしまったのだろうか?前回の2009年の公演は歌手陣はまずまずでそう不満はなかったのだが、古い自分のブログ記事を読まないとその時の印象が思いだせないような水準の歌唱だったようだ。
 さて、今日の公演はどうだったか?おそらくこのトスカはそう簡単に忘れられるものではないような気がした。まずカヴァラドッシのサイモン・オニールが素晴らしい。始まってすぐの「妙なる調和よ・・・」などはエンジンが温まる前のせいか、今までライブではまともに聴けたことはなかったが、このオニールは最初から朗々と歌う。その声の透明感と、響きの豊かさ、そして全く危なげのない安定感たっぷりの歌唱には惹きつけられた。そのあとのトスカとの長い二重唱も見事としか言いようがない。ついでコーのスカルピアがよかった。凄みのある声ではなく、むしろ明朗な声で、スカルピアには合わないのではないかと思ったが、聴いているうちにそのような不安は全く払しょくされる立派な歌唱だった。なにより声が崩れないのが良い。2009年の時はジョン・ルンドグレンと云う歌手だったが、声を張り上げると金属的な声になってしまって少々気になった。 ノルマ・ファンティーニは新国立の常連で、過去何度も聴いているはずだが、どうも印象に残らない。今日は千秋楽のせいか、かなり気合が乗っていて2幕の「歌に生き恋に生き・・・」などは情感たっぷりで聴かせたが、二人の男性に比べると声の安定度と云う意味では少々落ちるような気がした。ただ私が過去聴いた彼女の歌唱ではベストのように思った。それは一つには彼女の気魄のこもった歌唱と演技によるものだと思った。いずれにせよこの3人による歌唱はかなりの高水準であることは間違いなく、久しぶりに満足のゆくトスカの舞台だった。
 沼尻の指揮はもうオペラの経験豊富さを物語っており、歌手にぴったりと寄り添った演奏ぶりだった。歌によりテンポを上げたり、落としたり柔軟な音楽運びだった。演奏時間は115分(拍手含む)。マゼール盤、カラヤン(旧)盤、プレートル/カラス盤、デービス盤とはそれぞれ数分以内の差で、全く違和感のないテンポだった。東フィルも相変わらず座付きオーケストラの様な安定感だった。
                                                        〆