2012年10月25日
於:横浜みなとみらいホール(1階14列中央ブロック)
 
クリスティアン・ティーレマン指揮/シュターツカペレ・ドレスデン来日演奏会
ワーグナー
  歌劇「タンホイザー」序曲
  楽劇「トリスタンとイゾルデ」、前奏曲と愛の死
  歌劇「リエンツィ」序曲
ブラームス:交響曲第一番
 
先日のウィーン国立歌劇(ウィーンフィル)の時にも感じたのだが、欧州の一流のオーケストラと日本のオーケストラとの微妙な差を(聴く人によれば微妙ではないかもしれない)を感じた夜だった。ドレスデンの音もぎゅっと詰まったいささかの、音に空隙のないオーケストラの音だ。そして更に感じたのはオーケストラは美しいだけでは駄目だと云うことである。ドレスデンの今夜の音を聴いて、決してゴリゴリとした重厚感を表に出した演奏ではないのだが、一音一音の実体感と云うか、もっとわかりやすく云えば力強さが違う。例えばヴァイオリン。しなやかでありながら鋼の様な強靭さを感じる。また木管も単に美しいだけではなく、例えばブラームスの2楽章のオーボエ、フルート、クラリネットの芯の通った、力強さは強く印象に残った。オーケストラの中から燭光のように光り輝き、ホール全体に広がる、この美しさと力強さ。これは日本のオーケストラはちょっとかなわないような気がした。先日のインバル/都響のブラームス四番の1楽章の冒頭のヴァイオリンはせつせつとした美しさには耳を奪われたが、おそらくドレスデンだったらそれに更に強靭さが加わったろう。都響や東響など在京のオーケストラが最上の演奏をしても、この音色は出せるかどうか?考えさせられた夜だった。
  ティーレマンの指揮は日本ではブルックナーばかり聴いてきたが、この人はオペラの人ではないかと改めて思った。今夜の前半のワーグナーのオーケストラピースはどれも素晴らしいもので、とくにトリスタンとイゾルデの前奏曲は圧巻。うねるようなオーケストラの響きとティーレマンの音楽作りが相乗して極上の音楽。このままオペラに入って欲しいくらいだった。愛の死はやはり歌が欲しい。テンポはごく遅いがそれが滞留に感じないところが彼の真骨頂だろう。タンホイザーは若々しい音楽でまた違う面を味わうことができた。特に最後に巡礼の主題が戻ってくる場面、ヴァイオリンが天国的な調べを奏でながら、もう一度盛り上がってゆく様は圧倒的だった。ただリエンツィはちょっと騒々しいだけの音楽の様な気がして、もっと違う曲を、例えば神々の黄昏のジークフリートの旅立ちなどを聴いてみたかった。
  ブラームスもティーレマンらしさ一杯だ。4楽章の序奏から主部に入る間の長いこと、あっ、また止まっちまった。てな具合だが、以前よりその違和感が少なくなったように思った。26日のブルックナーではどうだろう。今夜改めてティーレマンの交響曲の演奏は起承転結が明快だと思った。特に両端楽章でそれを感じた。1楽章の展開部から再現部への前、音楽が大きく沈みこんだ後、主題が再現するが、それは更に巨大になって戻ってくるのが興奮を呼ぶ。更に4楽章では序奏は遅いのが想定内で、提示部もまあこんな感じかなあとおもっていたら、展開部~再現部へ次第に音楽が膨れ上がってゆく様は圧巻で、そしてそのまま終結部へ駆け抜けるかと思ったら、最後にもう一度腰を落とす。ここはわざとらしさを感じさせる寸前だが、その音の渦にそのようなことを忘れさせるような効果だった。なお演奏時間は47分弱。定評のあるミュンシュ/パリ管とほぼ同じ演奏時間。なお愛聴盤のヴァント/北ドイツ放盤より数分遅い演奏時間だった。
  アンコールはローエングリンの第3幕への前奏曲。これはまた目の覚めるような輝かしさだった。ティーレマンのオペラは2008年のバイロイトで聴いた「リング」はいまでも懐かしく、時々そのライブ盤を聴くが、あれから4年、更に熟成したオペラを聴かせてくれるだろう。一度聴いてみたいものだ。
                                                      〆