2012年6月28日
於:東京オペラシティコンサートホール(1階18列中央ブロック)

東京シティフィルハーモニック管弦楽団
     第260回定期演奏会

指揮:尾高忠明
チェロ:宮田 大

エルガー:チェロ協奏曲
エルガー:交響曲第一番

エルガー2曲によるシンプルな構成。
チェロ協奏曲はCDでも、ライブでも今一つ好きにならなかったが、今夜の演奏は初めて楽しむことができた。宮田のチェロは実に雄大で素晴らしい。最初に主題が鳴った時に今まで聴いたことのない豊かなチェロの音。オペラシティと云うこともあるが決してそれだけではないだろう。しかも彼の場合はアンコールの「鳥の歌」のようにものすごく精妙な音も出せるのである。尾高の指揮もめりはりがあって十分なサポートだ。ゆったりとやっているようでいて、ここぞと云う時のパンチもすごい。実に立派なエルガーだった。

 更に素晴らしいのは交響曲だ。エルガーは尾高の得意の曲だが、それにしてもこれだけの立派なエルガーが聴けるとは思わなかった。この曲は何年か前の都響の定期で初体験して感銘を受けた。その後コリン・デーヴィス/ロンドン響のCDでも良く聴く。やはりモットー主題が素晴らしく。この部分はいつ聴いても肌に粟を覚えるほど、ぞくぞくする。大英帝国の栄光とたそがれを表わしているように私には聴こえる。
 尾高の指揮は比較的テンポが速い。1楽章の冒頭のモットー主題などはかなり遅めであるが、しかし主部に入ると一転音楽が荒れ狂う様が素晴らしい。ここではテンポも速い。デーヴィスとは2分ほども違うのだから、テンポの上げ下げが過激だと云うことがわかるだろう。2楽章はマーチだが従来のスケルツォのようだ。ここも凄い迫力で耳を奪われる。しかし中間の緩やかな部分はチャーミングである。圧巻は3楽章でこの演奏の美しさは特筆したい。ここでは尾高はじっくりと腰を落とし誠に丁寧に指示を出している。4楽章の素晴らしさは言うまでもないだろう。中間部分で各主題がミックスされる部分は感動的であるし、最後に圧倒的なボリューム感で現れるモットー主題は更に胸を打つ。エルガーの交響曲を再認識させてくれた演奏だ。今夜のお客さんは幸せだろう。
 シティフィルの演奏も全く傷がないとは言えないが、尾高の指示にしっかりと食いついて立派な演奏だった。前回の飯守のブルックナーも素晴らしかったが、このエルガーも負けずとも劣らない演奏だったと思う。ただ聴いた印象でものを言って申し訳ないが、ブルックナーに比べると、曲のせいなのか例えて云えば少々画素数の少ない音に思われた。これはしかし決して劣るというのではなく、むしろ何か違った次元の音の印象なのだ。とても懐かしい音なのである。そう私が30年ほど聴いてきた、タンノイのスピーカーの音なのである。タンノイはエルガーの曲のために作曲されたのではないかと錯覚するほどだった。高弦は決して伸びやかではないが、しかし決して丸っこくもなく、ここぞと云う時はきりりとした音も出す。金管は輝かしいが、しかし音の印象はいぶし銀のように渋いのである。私の今のスピーカーはタンノイの質感を生かしつつ、音場のリアリティを出したスピーカーだが、タンノイの質感が時々無性に懐かしくなるのである。今夜はそれを思い出してしまった。別れた恋人を思い出すようなものであろうか?これは世迷言かもしれないが率直な印象である。尾高がこの音色を意識的に出したとしたら素晴らしいとしか言いようがない。
                                     〆