初めて我が家にオーディオ装置(ステレオ)が入ったのは、私が高校受験に受かったごほうびに、父親が買ってくれた、そうそれは1961年だった。コロンビア製で定価が39800円、すべてオールインワンの今から思えば、ラジカセに毛の生えたようなものだった。最初はレコードなど高くて買えなかったのでステレオに付属のコロンビアのテストレコードばかり聴いていた。トリオ・ロス・パンチョスのべサメ・ムーチョを毎日聴いていたのである。
 初めてレコードを買ったのは今はもうないと思うが、数寄屋橋の西銀座デパートの中にあった中古レコード店のハンターで、ドヴォルザークの「新世界だった」。演奏はカレル・アンチェル指揮/チェコフィルだった。金額は覚えていないが1200円くらいだろうか?何ヶ月も小遣いをためてやっとの思いで買ったのだ。そのころ25センチ盤というのがあって、買ったのはそれだった。30センチ盤なんて買えないのだ。それから学校から帰るとこの曲ばかり擦り切れるまで聴いた。それからバーンスタイン/ニューヨークの運命や幻想など少しづつ買い集めたのだった。
 先日カラヤン1960’sというなんとCD82枚セットものを買った。タワーの通販で14000円弱である。一枚あたり200円にも満たないのである。なんと便利なというかイージーな世の中になったのだろう。これでは1枚のCDに対する熱い思いなどなかなか湧いてこないだろう。私は少なくてもブラックディスク時代はどのレコードはいつ、どうやって、どこで買ったのか全て覚えていた。だからその曲を聴くとそのシチュエーションまで思い出してしまうのである。今は残念ながらそういうことはない。それが良いことなのか寂しいことなのかどちらだろう。
 新世界が最初のレコードになったのは、初めて聴いたクラシックがこの新世界の2楽章だったからだ。中学校の音楽の先生が音楽の時間にかけてくれたのだ。それがずっと頭にあって最初に買うレコードはこの曲に決めていた。今思ってみると1000円ちょっとのお金を握り締めて銀座まで行った自分が愛おしい。
                                                                  〆