2012年3月17日
於:東京オペラシティコンサートホール(2階5列中央ブロック)

東京都交響楽団、作曲家の肖像 86回<ドヴォルザーク>
指揮:エリアフ・インバル
ピアノ:クン=ウー・パイク

久しぶりに「新世界より」を聴いて、この曲はいい曲だなあと改めて感じた。この曲を初めて聴いたのは中学の音楽教室でだったが、初めて買ったレコードも多分この曲だったと思う。高校一年の時だった。カレル・アンチェル/チェコフィルの演奏で、25センチのレコードだった。そのころは30センチ以外に、25センチなどと云うのもあったのである。数寄屋橋にハンターという中古のレコード屋(今はもうないと思う)で見つけたものだ。小づかいなどわずかなものだから、やっとためた小金を握りしめて買ったのがこのレコードだった。そのあとお金がたまるまでしばらくレコードを買うことができなかったので、何カ月も毎日毎日このレコードを聴いていた。その後大学に入り、アルバイトをするようになると、少し余裕もできて徐徐にコレクションが増えてきた。その中で最も印象に残った「新世界より」はケルテス/ウイーンフィルのものだ。これはいまでも愛聴盤でこれ以外にもカラヤン、ショルティ、セルなどが指揮したものを聴いてきたが、結局このケルテス盤に帰ってくるのである。序奏の後、左スピーカーからティンパニーの強烈な音が聴こえてくる、デッカの録音も素晴らしかった。この当時はスピーカーはパイオニアのPAX-20Fという同軸型のスピーカーにトリオの真空管のアンプ、シュアーカートリッジで聴いていたが、その程度の装置でもわくわくするような音だった。まあ余談はこれくらいにしておこう。
 
 今日の新世界はどうだったろうか?予想以上に素晴らしく、決して甘さのない、どっしりした演奏だったと思う。マーラーなどのようにはテンポをいじったりはぜずひたすら前進する様はこの曲の通俗性をぬぐい去ったものといえよう。特に両端楽章のダイナミックレンジの大きな演奏は印象的だった。都響の能力も、余裕綽々と云った感じで、このコンビでマーラーなどの名演を演奏してきたことが自信になっているのかもしれない。2楽章の木管群の質感も素晴らしい。終楽章の再現部からコーダへのたたみかけるような金管も印象的だった。
 ピアノ協奏曲は初めて聴いた曲だ。牧歌的な両端楽章、夢見るように美しい2楽章が印象的で、特に2楽章の美しさはドヴォルザークのもつ土俗的な響きとは異なった上品なものだった。ピアノは韓国の実力者によるもので初めてこの曲を聴く者にとって何ら過不足のない演奏だったと思う。ただティンパニのドロドロした音が弦などをマスクしたように聴こえたのがちょっと面妖だった。交響曲ではそういうことはなかった。
                                     〆