2012年2月17日
於:NHKホール(1階9列右ブロック)

NHK交響楽団第1722回定期演奏会Cプログラム
指揮:ジャナンドレア・ノセダ
ピアノ:デニス・マツーエフ

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第一番
カセルラ:交響曲第二番(日本初演)

今日はダブルヘッダーだ。14時からオペラ「沈黙}を聴いてから、19時からは本公演、流石に忙しく疲れました。耳が飽和しそうだ。
 チャイコフスキーは誠に力感あふれた熱演。3楽章を聴いて熱くならない人はいないだろう。このマツーエフという人はロシアの人で、チャイコフスキーの優勝者。体が190センチくらいあって、ピアノが小さく見えるくらい(ちょっとオーバーか!)。冒頭のピアノの登場は、まるでピアノに体をたたきつけるようだ。9列目のせいかハンマーが弦を叩く姿が目に見えるようだ。実に豪快な音だ。だからと言って音が崩れているわけではない。1楽章の最後の部分も、テンポをぐっと落として、誠にスケールがでかい。
 2楽章はアンダンテらしく静かに入ってくるが、中間部の常動曲のような部分はちょっと大型の独楽鼠が走り回っているようでめまぐるしい。その勢いに圧倒される。そして圧巻は第3楽章だ。一気呵成に最後まで突っ走る、最後の追い込みは手に汗にぎる迫力で、ピアノが壊れんばかりだ。とにかく最後までパワーに圧倒されてしまった。たまにはこういうピアノの音響シャワーを頭からかぶるのもよいものだ。
 演奏時間は35分、愛聴盤のリヒテル/カラヤン盤とほぼ同じ演奏時間。なお、アンコールはグリーグ「ペールギュント」から「山の魔王の宮殿」、ギンスブルック編曲。最初にゆっくりと主題が低音で弾かれた時には、ええっと思ったが、これがなかなか凄い編曲で、とにかく呆気にとられるような音の連続で大拍手だった。

カセルラの交響曲は本邦初演。カセルラはイタリア人でパリで勉強し、活躍したらしい。マーラーの大信奉者で、本曲もその影響が色濃く出ている。1楽章と5楽章はまるでマーラーの交響曲第二番の最終楽章のようだし、2楽章はスケルツォ風で中間のトリオはマーチ風の舞曲の様な音楽。3楽章はアダージョだがマーラーのような美しさではなく、むしろ沈鬱な印象。それを受けて4楽章は軍隊行進曲の様な荒々しい音楽だ。作曲された1908-9年ごろの世相を表わしているのだろうか?そして最後はそれを打ち破るような凱歌で、マーラーの二番と三番の最終楽章のミックスの様な音楽、鐘やオルガンが、最後には盛大に加わり、あの広大なNHKホールが揺るがんばかりの大音響で圧倒される。N響でこういう体験は初めてだった。とにかく音響的には面白かったが、少々音の洪水が大きすぎて疲れ果ててしまった。まあ「沈黙」を聴いた後、凄まじい「チャイコフスキー」を聴き、そしてこの曲だからかもしれない。でももう一度聴いてみたい曲ではある。
 N響は最近ではベストの演奏ではないかと思った。アシュケナージのシベリウスやブロムシュテットのチャイコフスキーも素晴らしかったが、今夜はそれ以上だ。ノセダのドライブ力の賜物だろうか?まず弦が全くうるさくない、こんな綺麗なN響の弦は久しぶり。そして金管群は全く破綻がなく、伸びやかな音で安心して聴いていられる。そして9列目でも決してうるさくない。誠に素晴らしいパフォーマンスだ。演奏後ノセダは最初に打楽器群にスタンディングを指示したが、打楽器群の迫力も特筆すべきだ。重量級のプログラムで大満足の一夜だった。劇場を出たら雪で、寒かったが音楽の力のせいか体は暖かかった。
 
参考:チャイコフスキーピアノ協奏曲第一番:ピアノ、スヴャストラフ・リヒテル  
   指揮、ヘルベルト・フォン・カラヤン、ウイーン交響楽団
   (UCCG-4274 1962年、ウイーン、ゾフィエンザール)
                                    〆