2010年12月10日
於:NHKホール(2階2列中央ブロック)

第1689回NHK交響楽団定期演奏会Cプロ
ブリテン:「戦争レクイエム」

指揮:シャルル・デュトワ
ソプラノ:タチャーナ・パヴロフスカヤ
テノール:ジョン・マーク・エンズリー
バス:ゲルト・グロホウスキー
合唱:東京混声合唱団
   NHK東京児童合唱団

この大曲をライブで聴くのは初めてで今年期待のコンサート。この曲を知ったのは作曲家自身が指揮をした1963年の録音のCDである。歌手はピアーズ、ディースカウ、ヴィシネフスカヤなどブリテンの理想のラインアップで録音されたもの。ジョン・カルショウのプロデュースで素晴らしく鮮明にとれていて50年近く前の録音だが全く色あせていない。このラインアップは初演とほとんど変わらない。ソプラノがロシア政府の圧力で初演には参加できなかったらしい。
 レクイエムの典礼文の間に第1次世界大戦で戦死したオーエンというイギリスの詩人の詩が挿入されている。ユニークな音楽。オーエンの詩は誠に生々しく典礼文の間に挿入すると何か典礼文が空々しいがそれをブリテンの音楽がしっかりとカバーしている。
 
シャルル・デュトワの指揮は全体的にゆったりとして(85分、ブリテンより相当遅い)、抑制的な演奏に思えたがこの編成の巨大な音楽を十分楽しませてくれた。
 特に感銘を受けたのは断然後半の2章である。神の子羊はオーエンの詩をテノールが歌い、典礼文はコーラスが歌う。オーエンの詩の部分が特に素晴らしくこのテノールの柔らかくしなやかな歌いぶりに感動してしまった。
 最後のわれを解き放ちたまえでは怒りの日が再現されるが、これが前半とは全然違って、誠に気合いの入ったのりで、圧倒的な音楽だった。オーケストラにオルガンが加わり、それに合唱が相呼応して素晴らしい音の渦。金管の鋭い音効果的。そしてその後オーエンの詩を男声2人が歌う、ここも感動的だが、最後のさあ、もう眠ろうよは、今夜の演奏の白眉。これを聴いて心が動かされない人はいないだろう。さらにこの歌と典礼の歌(ソプラノ、児童合唱)が混ざり合い静かに曲は終わるがここも実に効果的。
 印象としては前半はちょっと抑制しすぎで、バランス重視の様な気がした。冒頭のレクイエムの合唱の歌いだしも何か気のない歌い方だし、怒りの日も全然恐ろしくない。いと高き天にホザナも盛り上がりに欠けた。大体ティンパニと金管が全く元気がなく冴えないのはなぜだ。ただソプラノによる涙の日は独特の旋律だがソプラノが透明感よりも柔らかさが生きた歌いぶりで心に残る。
今夜は後半にあっぱれ!
                                〆