2010年1月8日
於:サントリーホール(19列中央ブロック)

東京交響楽団題574回定期演奏会
指揮:大友直人
ピアノ:キャサリン・スロット
シューマン:序曲、スケルツォとフィナーレ
フィトキン:ピアノ協奏曲「RUSE]
ベートーベン:交響曲第七番

今夜のプログラムは何か意図のわからない編成である。この3曲にはあまり連関がないような気がする。
今夜の聴きものはフィトキンだ。本邦初演だそうな。フィトキンはイギリスの作曲家でまだ40代である。
3楽章形式であるが切れ目がなく続けて演奏される。1楽章はピアノの連打である。オーケストラは弦5部と2台のティンパニのみ。ティンパニとピアノの連打が果てしなく続く。このままで終わってしまうのかと心配になったくらい(なにせ日本初演だからどういう曲か見当がつかないのだ)。7-8分ほど続いて突然静まる。2楽章は「パパパパーン」という4拍目にアクセントのある静かな主題が支配する。この主題が繰り返し現れてきて、あまりにしつこいので、だんだん不安になる。
そしてまた突然連打になる。この連打はクレッシェンドだが同じ音が繰り返しでてくるので2楽章同様不安になる。突如おさまったかと思うとまた始まる。この繰り返しは何か追いつめられたような気分になるが突然静かになりまた2楽章のあの主題が帰ってきて終わる。不思議なことに連打の後にこの静かな主題がでてくると何かほっとした気分になり埒があいたような気持ちにさせられる。実に不思議な作品であった。しかしピアニストへの負荷は相当なものだと思う。スロットの熱演に拍手。東京交響楽団の弦もしっかりついていっており充実した日本初演だと思った。

ベートーベンの七番はこの数カ月で3回目である。在京のオーケストラの選曲のワンパターンにはあきれる思いだ。もう少し調整できないもんか!
しかし、3回の演奏はほぼ同じ演奏時間にもかかわらず印象はかなり違うからそういう面では良い経験をした。
インバル/東京都は巨匠的なゆったりした歩みと都響のピュアな響きに感心したし、ヴァンスカ/日本フィルのダイナミックレンジの広い、スケールの大きい演奏は良かった。さて今夜の大友はいかに。昨年このコンビで幻想交響曲を聴いたがとても満足したので実はとても期待した。
ゆったりした第1楽章の序奏、今まであまり気にとめていなかったがオーボエが実に存在感があった。そして主部に入ると少々駆け足になり何か落ち着かないがしばらくすると落ち着いてきて実に聴きごたえのある第1楽章だった。演奏時間も13分強で遅め。2楽章は木管群の掛け合いが実に美しくまたテンポも小気味よくこのアレグレットの持ち味を引き出していたと思う。あまり美しいのであっという間に終わってしまい物足りないくらい。演奏時間は約8分でクライバーとほぼ同じ。
3楽章以降は少々居心地が悪かった。スケルツォは滅法速い。それは良いのだが(むしろ自分はこのくらいのテンポが好き)何か空回りしているような落ち着きのなさを感じた。テンポが上がってもやはりベートーベンはどっしりしていなくてはならない。トリオは逆にゆったりしている。この対比は常套手段のようなものだがスケルツォが落ち着かない(スケルツォだから落ち着かないのだという意見もあるかもしれない)のでバランスが悪いのである。
4楽章も出だしから前のめりの様相。クライバーとほぼ同じ演奏時間なのに印象はかなり違う。クライバーは出は少々ゆったり目だがコーダがすさまじいのだ。大友は鼻からトップスピードで途中で手綱を緩めている。だからコーダでスピードを上げても出と一緒だからあまり盛り上がらない。どうせならカラヤンのように同じテンポで一気呵成に駆け抜けるほうが興奮するように思う。今夜の演奏でびっくりしたのはコーダで金管の強奏の部分があるがこれが突拍子もなくでかい音だった。ちょっとバランスが悪いのではないだろうか。幻想ではこの効果は凄かったがベートーベンではそうはいかないと感じた。この音バランスという意味ではインバルに一日の長があるように思った。演奏時間もテンポもヴァンスカとほぼ同じなのになぜか印象は違うのである。これがライブの面白さかもしれない。
今夜の東京交響楽団はいつもより若干華やかに聴こえた。好みとしてはもう少し渋い音が良い。特に金管が華やいでいた。反面低弦(バス)は少々物足りない。1楽章のコーダの部分で同じ音型を繰り返すバスの音はもっとゴリゴリやってほしい。そうでないと金管とのバランスが崩れるように思われる。金管でひとつ付け加えると3楽章のトリオの終わりの部分でホルンが「もごもご」吹くところがあるがここが手風琴みたいで実に良い感じだった。
シューマンの曲は正直よくわからなかった。これは機会音楽なのだろうか?まさか習作ではないだろうが!
                              〆