2009年9月19日
NHK交響楽団定期公演 Aプロ
於:NHKホール(18列中央)


曲目:オールメンデルスゾーンプログラム

序曲 「フィンガルの洞窟」(ローマ稿)
ヴァイオリン協奏曲 (初稿)
交響曲第三番「スコットランド」

演奏:
指揮:クリストファー・ホグウッド
ヴァイオリン:ダニエル・ホープ

奇しくも7月の読売定期(指揮尾高忠明)と同じプログラムとなった。もう少し調整できないものかと思ってプログラムを見るとさすがホグウッド、稿が違うのだ。フィンガルの洞窟はローマ稿、ヴァイオリン協奏曲は初稿。ただし交響曲三番は最終稿でいずれも私たちが普段耳にしているものと楽譜が違うのだ。

さて、今夜のN響の音は何か違う。N響の音はどちらかというと重厚ながっちりした音だと思うが今夜は細身できりりとした音。古楽の大家ホグウッドがモダンオーケストラをどのように振って音を出すのか興味しんしんだったが期待にたがわず実に今まで聴いたことのないようなメンデルスゾーンを聴かせてくれた。

古楽の大家でモダンオーケストラを指揮したものとしては今春ブリュッヘンハイドンロンドンセット``全曲をトリフォニーホールで聴いた。これも実にきりりとした男性的な演奏であった。原因の一つはビヴラートをかけない奏法にあると思われる。今夜もヴァイオリンはほとんどヴィブラートをかけていないように見えたのでおそらくそうだろう。そういう弦をベースに金管がすさまじい。普段は咆哮であるが今夜は炸裂である。咆哮と炸裂はどう違うかは言葉では難しい。感じ取っていただきたい。それとティンパニのすさまじいこと。特に三番の交響曲の第四楽章の休止のあとのコーダはすさまじい。これは決して柔なメンデルスゾーンではなくほんとうの筋金入りのドイツ音楽なのだということを再認識した。今夜の演奏を聴くとCDで日ごろなじみのアバド/ロンドンの演奏が今一に思えるから不思議だ。

メンデルスゾーンはお金持ちに生まれ、生活に何の不自由もない、音楽家としては珍しい経歴である。だから彼の作品は聴いていて鼓舞・叱咤激励されるようにはなっていない。何か幸せな気分を高揚させる音楽とばかり思っていた。しかし今夜のメンデルスゾーンはちと違う。一つは今述べたようなホグウッドの指揮、もう一つは版である。特に前半の二つは初稿かそれに準ずるものであり肌合いが違う。フィンガルの洞窟にはその中でも驚かされた。いつも聴きなれた曲とはかなり違う。楽譜が読めないので的確には表現できないが始まって四分、八分そして最後の盛り上がりなどでその違いがわかる。現在の版がいかに流麗でなめらかな音楽か!そしてこのローマ稿がなんと荒削りなことか!北の海に浮かぶヘブリデス島の姿がこの稿では浮かび上がって来るように感じた。この曲がこんなに厳しい音楽なんていままで思ってもみなかった。

さて、ヴァイオリン協奏曲は初稿だそうだがこちらはあまり違いがわからなかった。ホープは南ア出身のヴァイオリニスト。超美音とは言えないが非常に素直な音が好ましい。第二楽章やアンコールのラベルなどはフィットしていた。演奏時間は26分強。愛聴しているハイフェッツ/ミュンシュ/ボストンの24分に比べると長いが聴感上はあまり違和感無かった。三楽章もかなり盛り上がった。

そしてスコットランド交響曲である。演奏時間はおよそ40分だからアバドとほぼ同じ。7月の尾高が35分だったから尾高の演奏がいかに忙しいかよくわかる。冒頭述べたように、なんといっても四楽章が圧巻であった。ゆったりした第一楽章、たたみかけるような二楽章いずれも素晴らしい。稀にみる素敵なメンデルスゾーンであった。
                               終わり