DVD寸評

クラウディオ・アバド指揮ベルリンフィルハーモニー
ベートーベン、交響曲全曲演奏会
於:サンタチェチーリア音楽院(ローマ)
2001年ライブ
1,2,3,4,5,7番を聴いた印象。まず音色。編成が通常のベートーベンに比べると弦が1/3くらい少ないので全体にすっきり軽やか。またテンポが全体に速い。アバドの解説DVDを聞くとメトロノームに忠実に演奏した結果だそうだ。きりりとしたさわやかな演奏はいかにも現代風である。3,4,7が特に良かった。アバドは病み上がりのためかなり痩せているが精力的な指揮でそれを感じさせない。


リカルド・ムーティ指揮ウイーン国立歌劇場管弦楽団
モーツァルト「ドンジョバンニ」
於;アンデア・ウイーン劇場
1999年ライブ
ドンジョバンニ:カルロス・アルバレス
レポレロ:イルデブランド・ダルカンジェロ
ドンナアンナ:アドリエンヌ・ピエチェンカ
ドンナ・エリヴィーラ:アンナ・カテリーナ・アントナッチ
ツェルリーナ:アンジェリカ・キルヒシュラーガー
ムーティの指揮はテンポが速く颯爽としたモーツァルト。舞台はアンデア・ウイーン劇場という狭い劇場のためスペースが限られており中央に階段状の段がありそこを中心にくるくると場面転換する。演出はロベルト・シモーネという人。ドンジョバンニは貴族というよりも単なる女たらしであまりしまりがない。レポレロは忠実な従者であるがあまりブッファの役らしくなくかなりまじめでちょっと面白くない。女性陣はなんといってもツェルリーナが素晴らしい。昨年もコシファントゥッテで歌っていたが声も、姿も美しい。続いてドンナエルヴィーラが良い、というより自分は最も彼女に共感してしまうのでとにかくこの役の歌が好きなのである。地獄落ちはあまり怖くない。通常のデモーニッシュなドンジョバンニを期待するとがっかりするが歌唱を楽しむには十分な一枚である。


アレーナ・ディ・ヴェローナでのライブ(2004年)
プッチーニ「マダマ・バタフライ」
演出はフランコ・ゼフィレッリ
指揮:ダニエル・オーレン
蝶々さん:フィオレンツァ・チェドリンス
ピンカートン:マルチェロ・ジョルダーノ
シャープレス:ファン・ポンス
アレーナ・ディ・ヴェローナは屋外の舞台のためとにかく巨大であるのでこれをどうさばくかは演出家の腕前のみせどころ。日本で良く見るのは中央に日本の家らしきものを配してあとは周りに桜の木なんていうのが定番だがこれではヴェローナの舞台は生きない。ので真ん中に日本家屋らしきものを配するのは変わらないが家の周囲が岩場になっておりそこをいろいろな人が絶えず往来するような設定にしている。もちろん二重唱や「ある晴れた日に」などの時は往来が止まる。しかし困ったのはワダ・エミの衣装だ。日本だか中国だか得体のしれない衣装。これはちょっとひどいと思ったがイタリア人には受けるのかもしれない。
歌手ではチェドリンスはさすが、特に二幕に入ってからが素晴らしい。彼女の凄いのはもちろん歌唱は素晴らしいが、その演技にはいつも感心させられる。しかし一幕はちょっと気持ち悪い。なぜなら15歳になろうとしてそれらしく歌おうとするのでこれは自分の趣味にあわない。しかし二幕は本当に胸を打ち眼がうるうるしてしまう。ただ自害するシーンは今一つ心が動かなかった。これは演出の問題かもしれない。もうひとりファン・ポンスのシャープレスも素晴らしかった。特に二幕の後半で蝶々さんに子供を渡すように言う場面など涙なしには聴けない。ピンカートンは本当に嫌な奴だ。
この二人以外は凡演、特にゴロー、大官、ケート、すずきは悲しいくらい下手。これなら新国立の日本人たちのほうが倍くらいうまい。
指揮のダニエル・オーレンはめりはりの利いた指揮で聴かせる。良いのは緩急が自在でなかなかよかった。



アレーナ・ディ・ヴェローナからもう一曲
ヴェルディ「リゴレット」
演出:シャルル・ルポー
指揮:マルチェロ・ヴィオッティ
リゴレット:レオ・ヌッチ
マントヴァ侯爵:アキレス・マチャード
ジルダ:インヴァ・ムーラ
この舞台は感心した。中央に大きなリゴレットの家を模した建物がありそれが中心に芝居が動く。それが四幕ではスパラフチーレの家にもなる。一幕はマントヴァ侯爵の屋敷の広間であるが群舞シーンが広い舞台をうまく使って面白かった。
歌手ではレオ・ヌッチはさすがである。よかったのは二幕冒頭の「同じ穴の貉か」であったが肝心な「悪魔め鬼め」があまりにテンポが速すぎて落ち着かなかったのは少々残念。
ジルダ役はアルバニアの新人らしいが素晴らしい声で魅了「カロ・ノーメ」も素晴らしいしマントヴァとの二幕の二重唱も聴かせた。聴衆も大いに沸いてこの二重唱はアンコールされてまたまた盛り上がった。日本ではなかなかないシーンである。
マントヴァ侯爵役はヴェネズエラの期待のテノール。これも美しい声(容姿は冴えない)でジルダとしっかり張り合っていた。「女心の歌」も軽々と歌い、これもアンコール、なかなかサービス精神旺盛の公演であった。こういうのもいいなあ。
その他の歌手はマッダレーナ、スパラフチーレ、マルッロ、モンテローネなど脇役は冴えない。どうも主演級にお金を使いはたして脇役陣はギャラをケチったのではないかと思われるくらいである。
指揮はかなりテンポが速いがそれほど違和感がなかった。前述のとおり「悪魔め鬼め」だけがちと不満。

バタフライよりも録音はこちらのほうがずっとよくDVDとしての完成度は高い。
                                以上