2020年5月24日
rakuenn

吉田修一の犯罪短編集から映画化したもの。犯罪映画というよりも人間ドラマに焦点が当てられている。

 そも、ここでいう楽園とは何か?今作品の中で2度触れられている(私の気付いた範囲で)。
一つは中国からの帰化した青年、中村豪士(綾野剛)が日本に来れば楽園があると思っていたけれどなかったというせりふ。自分の居場所がどこにもないという虚しさが感じられる。そこに少女失踪事件が起きる。
 もう一つは少女時代にその少女失踪事件をトラウマとして背負っている紡が、幼馴染の広呂(村上虹朗)に、お前は自分の楽園を見つけろよなあと,東京の飲み屋街のど真ん中でいわれる場面。ここでは楽園はそこにあるのではなく、自分でつかみ取るものだという意。楽園とは抽象的な概念ではなく、自分でつかみ取るものだという前向きな気持ちになるまでの少女の成長物語。そういう映画にもとれるが!

 一方、その失踪事件の近くの限界集落にUターンで戻り、養蜂家として地元に貢献しようとする田中善次郎(佐藤浩市)は、独走したことにより村八分になる。自分の楽園を築こうとしたが夢破れ、やがて正気を失い狂気へ!

 映画全体としては2つの犯罪が軸となり、それにからまる人間模様を描くが、正直みていて、人間を描く割には多くの人間を取り上げすぎなのではないかと云う印象が強い。楽園と云うメッセージと犯罪と云う現実との融合に物足りなさを感じた。うまい役者をそろえただけに皆うますぎて興ざめのところがあるがこういう辛気臭い映画の特徴でもある。紡を演じた、杉咲花はそのなかでも、わざとらしさの抜けた自然な演技。もうこういう映画は見まいと思うがいつも借りてしまう。