2020年1月21日

(NHK TV放映1月19日)


プッチーニ「トスカ」ミラノスカラ座2019-20新シーズン開幕公演(2019/12)

指揮:リカルド・シャイー
演出:ダビデ・リーヴェルモア

トスカ:アンナ・ネトレプコ
カヴァラドッシ:フランチェスコ・メーリ
スカルピア:ルカ・サルシ

おそらく、今年の秋に来日するスカラ座の公演ではこのパフォーマンスを持ってくるに違いない。歌手はルカ・サルシは来る予定だが、メーリもネトレプコも来ない。指揮と演出は同じである。だから舞台と演奏は今回のビデオ放映で見聞きするのと同じはずである。前もって見ることの是非はあろうが、私は良い予習だと思った。なお、この演奏は1900年初演の初稿ということである。1幕のカヴァラドッシのアリアの後や2幕のトスカのアリアのあとなど聴いた事のない歌詞が散見するが、つきあわせたわけではないので何とも言えない。ふつうにみる/きくには何の支障もないのでは思われた。

 歌手はおいておいて、今回の演出は欧州にしては実にまともである。セックスと暴力に明け暮れる欧州のオペラ演出界だがさすがにスカラ座のトスカでは読み替えはできないのだろう。

 舞台はイメージとしてナポレオン1世時代の雰囲気が出ている。日本の新国立の舞台や伝統的なウイーンの舞台に負けないだろう。
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 これは1幕幕切れのシーンである。中央の祭壇は回り舞台の上にあり、これがくるくる回り、舞台転換をスムースに行っている。群衆の動線もスムースであり、統一のとれた舞台である。このシーンのまえにアッタヴァンティ家の前で油絵を描くカヴァラドッシは3段に組み上げられた台にのり、その横に垂れさげられたキャンバスに絵を描く。CGで白黒のマグダラのマリアが一気に書き上げられ、カラーになるなどお遊びも面白い。

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 これは2幕である。ファルネーゼ宮殿のスカルピアの居室だ。手前は拷問されたカヴァラドッシを支えるネトレプコ、右の赤いガウンの男がスカルピア。上方のフラスコ画は絵ではなく、実際の人物が乗っている。この舞台の地下が拷問室になって入り、実際にはせりあがってカヴァラドッシの拷問シーンを見ることができる。

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少々太めのトスカがスカルピアを刺したところだ。最後は首を絞めて殺す場面もある。しかしスカルピアの頭の上に燭台を置くことはないし、胸に十字架も置かない。ネトレプコが暗闇に浮かぶさっぱりした幕切れだ。

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最後の銃殺の場面。舞台奥はサンタンジェロ城の天使の巨大な天使の羽である。羽の下が牢獄になっている。ここでは2重舞台が使われていないのでもったいない。トスカは幕切れでこの天使の羽の上に上り、飛び降りるがそのシーンはなく、スタントの女性?がティベレ川に落ちてゆくトスカの顔を映像に大きく映して幕である。この4枚の写真だけみても、かなりまともな舞台であるということがわかるだろう。

 さて、歌い手だが、かつてトスカやカヴァラドッシ、スカルピアを歌った歌手たちとは随分とは肌合いが違うものだ。ひとことでいうとこの1800年と云う時代がかった舞台とはそぐわないということだ。コスチュームプレーヤーのように芝居がかっては決して歌わない。ここにあるのは今日的なメロドラマの主人公の愛憎劇である。舞台はその飾りに過ぎないがこれは致し方がないだろう。これは例えは悪いが、日本の時代劇にジャニーズや「何とか坂46」の若者が出てくるようなそういう趣なのだ。
 こういう舞台だったらカラスやテバルディ、モナコ、ゴッビ、コレルリ、ドミンゴなどが出てくればさぞや映えることだろう。しかしそれももうないものねだりもいいとこだ。

 そういうことは忘れてこの演奏を聴くとなかなかい歌唱だったということがわかる。ネトレプコは相変わるずの低音の癖が気になるが、前半のラブシーンより後半2~3幕の劇的な舞台での歌唱は聴き手を引き付ける。メーリは日本ではがっかりする歌唱ばかりだが、ここでは彼なりのカヴァラドッシがある。つまりここでは自由主義の闘士と云う戦う男のイメージは全く感じられない。そのかわり女たらしとは言わないが、むしろ愛に生きる男、カヴァラドッシと云う印象である。そういうように聞くとこれはなかなかの歌唱。
 なかではスカルピアは存在感があった。いかにも人に嫌悪感を持たせる男を気持ちよく歌っていた。
その他脇のスポレッタ、堂守、アンジェロッティなどは一流とは言えない。スカラ座でもこの程度かと思うほど。日本ではどう歌ってくれるのだろう。

 シャイーの指揮はゆったりした棒。舞台には合っているが、歌い手にはもっときびきびしたほうが良いのではあるまいか?ボエームなどは超特急で演奏したので、やはり舞台負けしたのだろうか?演奏時間はアバウトだが121分強。

 なお、目玉のネトレプコは昔ウイーンで愛の妙薬に出ていたころに比べると随分と恰幅が良くなってしまった。顔もお盆のように丸いのはちょっと残念。もう少しダイエットが必要なのではあるまいか?日本に旦那と来た時のあの時よりまた太ったのではないか。あの時はオペrシティでかなり前のほうの席だったから一時太ったネトレプコが随分とスリムになったという印象を持ったのだが?旦那が熊のような男だったからかもしれない(失礼)。しかしそのジェイソヴィッチも独り立ちしてMETでは立派なカラフを歌っていた。まあこれは余談。

彼女の今の声ではマクベス夫人が最も適役だと思う。あの癖のある低音は凄味があって見事なマクベス夫人、METで歌ったのはもう何年まえだろう?