2019年10月21日
於:サントリーホール(2階5列中央ブロック)

東フィル

東京フィルハーモニー交響楽団第928回サントリー定期シリーズ
指揮:ミハイル・プレトニョフ
テノール(リスト):イルカー・アルカユーリック
合唱:新国立劇場合唱団

ビゼー:交響曲第一番

リスト:ファウスト交響曲

ビゼーの交響曲は懐かしい、もう全く聴くことはない曲だが、私がまだ若いころエアチェックした演奏を何度も聴いていたころがあった。明るく、若々しいこのビゼーの学生のころの作品は、あの「カルメン」のヴェリズモを思わせる陰惨さは感じられないが、若者の覇気は大いに感じらた。今夜の演奏は例えば3楽章のスケルツオなど実に立派な演奏で堂々としており、私が聴いていたころのイメージとは随分と違うような気がした。もう少しこの曲は南仏を思わせるような明るいではなかったかと思うが、プレトニョフ流だとこうなるのだろう。比較的大きな編成でたっぷり鳴らした、少々重量級のビゼーもなかなか良かった。ビゼーが聞いたらビックリするような立派な演奏ではあるまいか?(失礼)
 ビゼーとリストの組み合わせとは奇妙な感じだが、2人はある会で出会い、ビゼーがリストの前で演奏したらしい。その曲がグノーのファウストのワルツ(リスト)だったというトリビアな話がプログラムに載っている。こういう話に食いつくところはプレトニョフらしいといったら怒られそうだ。個人的にはファウスト一曲で十分だ。

 ゲーテの「ファウスト」を題材にした曲は多くあり、その中には私が比較的よく聴くボイートやベルリオーズのオペラやまた最近では先日来日したロイヤルオペラの「ファウスト」なども良く聴くようになった。別格では第2部の終幕を交響曲の第2楽章にあてた、マーラーの「交響曲第八番」なども良く聴くが、リストはすっかりご無沙汰だ。
 この曲は上記のオペラのようなストーリーは全くなく、3楽章それぞれでこのゲーテの主人公の性格を現わしている、ロマン的な作品である。リストの管弦楽の粋を集めたような曲で最後は合唱とソロが出てきて、「うつろいゆくものはすべて~」と歌いあげ、オルガンも加わって盛大に盛り上がる。この部分はマーラーの八番と同じである。ただ好みだろうがマーラーのほうが数等パンチがあり、さすがのリストも勝てないだろう。このリストはショルティ/シカゴのCDで聴いているがCDで聴いた印象ではかなり大きく盛り上がる部分がある。ただ今夜の演奏では案外と盛大に盛り上げない。そういうスタイルの演奏なのか、はたまた2階席のためなのかはよくわからない。
 その反面と云い手良いかどうかわからないが各楽章とも透明度はすこぶる高く、それゆえかいくつかの主要主題が実にわかりやすく聴きとれるのは指揮者の意図したところかもしれない。久しぶりに聴いて、大変面白かったが、とても疲れた。
 サントリーの2階席の音のバランスは素晴らしくきちんとピラミッド型の音場になる。そして音が溶け合うのが聴きとれるところが、生理的に実に気持ちが良い。これで終楽章がもう少しパンチがあればサウンド的には申し分のないところである。

 終楽章に男声合唱とテノールソロが加わるが、3楽章が始まっても出てこない。3楽章終結部の「神秘の合唱」の直前の静かな経過部分に歌い手たちが登場するという段取りになっている。これはなかなか気の利いたスタイルだ。合唱はおよそ30人でステージ後方に2列に並び、その中央にソロが配される。ソロは透明感あふれる声で曲想にあっていた。トルコ生まれのウイーン育ちだという。

 なお演奏時間はビゼーがおよそ30分、リストがおよそ79分。