「灼熱」
先の大戦の前後のブラジルでの移民間の抗争を描いた600ページを超える大作。史実に基づいているということだが、不勉強ながらブラジル日系人間ででこのような歴史があったということは全く知らなかった。それゆえ読みながら、1ページ1ページ驚愕の連続だった。
1945年8月15日、日本は玉音放送をもって内外に敗北を認めたわけだけれど、それを認めない人々が大勢いた。それはブラジル移民であった。大使館は早々に引きあげ、公式の情報が何ら入ってこない中、たよりは、日本語のラジオ放送。それも電波状況が悪く、とぎれとぎれ。しかも玉音放送の文章はただでさえ難解。多くの日本人はあれを勝利宣言と受け取ったという。著者はそれを小説仕立てで丁寧に描いている。その当時のブラジル移民においてピニオンリーダーは元軍人将校だった。この小説では瀬良悟朗である。このような人物が各地で組織化して、日本は負けていないと主張。負けたことを認識した人々を圧迫、抗争が起き、テロまがいなことまで発生したのだ。1950年の初めまでは日本が勝った派が多数派だったというのだから驚くべきことだ。
小説は沖縄移民の比嘉勇(12歳で、1934年に移民)と南雲トキオ(ブラジル生まれの日本人)を主人公にして、彼らを横糸にしている。彼らの12歳のころから30歳近くまでを描くが、その間の彼らの友情の機微は、移民の在り方とも密接に関係していて、本作の一つのキーポイント。著者は緻密に描いていて読みごたえがあった。そういう青春群像編とブラジルにおける戦争のもたらした歴史的悲劇編がミックスして、魅力ある作品になった。このところ面白くない本ばかりだったが、これは久しぶりにブログを書く気になった作品である。
〆