2017年に単行本で発刊されたものの、文庫化である。副題は「小説・鳥井信治郎」である。云わずと知れたサントリーの創業者の一代記である。
この手の本を本を読んで感じるのは、偉業を達成する人と云うのは、常人と何が違うのかと云うことである。偉大な人物の物語を読むときにいつも感じることである。
結局は本人の持つDNAがベースであることは間違いないことだと思う。しかしその人物の味付けをしている人物、もの、事象は千差万別である。そこが人間の面白いところだと思う。
もし、鳥井信治郎のクローンを作っても、違った環境(あじつけ)で育ったとしたら彼のあげた業績は果たして達成できたかどうかは断言できまい。
鳥井信治郎のそういう意味での味付けは、家族や、上司や、友人や、同僚や、部下とそこから派生する鳥井自身の持つ鋭い物事や人間に対する価値観だろう。
その味付けの具体的なものとしては「陰徳」、「神への信心」、「やってみなはれ」、「くじけぬ信念」、「柔軟な思考と受容力」、「常人の思いもつかない行動力」、「先見性」、そういったことどもであるが、本書を読んでいるといたるところでそれらに気付かされる。しかしその一つでも凡人は達成できないだろうということも併せて気づかされる。それだからこういう本は読むのが嫌になるのだ。
要するに自分が凡人であることを教えてくれる本だから。それでも読むのは、自分ではできないが、やり遂げた人々の達成感を共体験するのは喜びでもあるからだろう。
〆