2020年2月21日
於:サントリーホール(2階5列中央ブロック)
東京フィルハーモニー交響楽団、第932回定期公演
ビゼー「カルメン」・演奏会形式
指揮:チョン・ミュンフン
カルメン:マリーナ・コンパラート
ドン・ホセ:キム・アルフレード
エスカミーリョ:チェ・ビョンソク
ミカエラ:アンドレア・キャロル
ダンカイロ:上江隼人
レメンダート:清水徹太郎
フラスキータ:伊藤 晴
メルセデス:山下牧子
新国立劇場合唱団、杉並児童合唱団
「カルメン」全曲を演奏会形式とはいえ、定期にはめ込むとは、なんとも豪華なプログラムではあるまいか?N響も負けずにやるそうだが、あれは定期ではなく、特別公演だからまた別な話だ。今夜は定期公演と同じ19時開始なのである。休憩を1回はさんで、終演は21時50分頃だった。大変疲れたが面白かったし、ビゼーのカルメンと云うのはもうもったいないくらい名曲がぎっしりつまっているなあ、とあらためて痛感した。なお、実際の演奏時間は135分であった。
演奏会形式だが、舞台上に譜面台を置いて歌うという形式ではなく、簡単な演技をしながら行うというもので、今の歌手たちは実に器用なものだ。カルメンと云うオペラは現在はオペラコミック形式のせりふ付きでオペラハウスでは上演されることが多い。ただ昔はギロー版といってせりふをレチタティーヴォにして歌われる形態が多かった。カラヤンの旧盤(ウイーンフィル)などはその例である。
しかし、今夜の公演ではそのどちらでもなく、せりふ、レチタティーヴォは皆無に近い。したがって歌のナンバー1の導入部から26のカルメンとホセの2重唱で締めくくる終曲までを続けて聴くことになる。印象としては名曲コンサート風で歌い手が次から次へと登場してそれぞれが歌うという塩梅で、劇場で聴くようにドラマを感じるようにはなかなかならないのが欠点だろう。
とはいっても2幕の「花の歌」の前のカルメンの繰り言からあたりから、2幕の幕切れまではさすがに手に汗握るやりとりで、オペラを聴いたなあと云う気分。3幕の幕切れ、4幕の幕切れ、いずれもホセとカルメンの絡むシーンはドラマである。またこの部分でのオーケストラの音楽も新国立で鍛えただけあって、見事なものだった。結局この全曲あっという間に聴き終え、このようなスタイルもなかなかいいものだなあと感じた。
歌い手は主役から脇まで締まっている。カルメンのコンパラートはカルメンを得意にしているらしい。
ハバネラやセギデリアではお色気むんむんというわけにはいかないが、上記のホセと絡むシーンでの奔放な女としての生きざまは十分に感じられた。ただサントリーホールはオーケストラホールで残響が長いのがコンパラートには少々災いをしたのか、声が通らない部分もあった。
ホセのアルフレードは今日もっとも感動させられた。女々しい極みのホセだけれど、男なら一度はこういう気持ちにさせられたことはあるだろう。そういう記憶を呼び戻させられる歌唱だった。特に「花の歌」は絶唱。
ミカエラも素晴らしい。役柄にあった楚々とした声は、ホールに透明感を保ちながら通る。3幕のアリアが素晴らしかった。ドン・ホセはまずまず。
脇に回った邦人の中では山賊とその仲間たち(ダンカイロ、レメンダート、フラスキータ、メルセデス)がそれぞれ存在感を示し、舞台を締めていた。2幕の5重唱の軽妙さ、忘れられない歌唱だろう。
合唱も素晴らしいがとりわけ素晴らしいのは児童合唱だ。おそらく徹底的に鍛えられたのだろう、明晰な発音でホールの中に響きわたり気持ちよい。特に4幕の闘牛士たちの登場シーンは素晴らしい。
チョン・ミュンフンはもう自家薬籠中の曲なのだろう、暗譜で演奏していた。彼のシンフォニーなどでの演奏でも感じられる、音楽の強弱緩急のめりはりが、オペラでは一層効果的に響く。2幕のリリャス・パスチャの酒場で始まるシーン、最初は猛烈に遅く、最後は狂ったようにオーケストラを煽る。素晴らしい効果である。昔は例えば、カラス盤(指揮プレートル)などではこのようには演奏しない。こういう演奏をするようになったのはアルコア版(オペラコミック版)が演奏されるようになってからだろう。CDではマゼール盤(カルメンはアンナ・モッフォ、ホセはコレルリ)が最初のはずだ。あのときの衝撃は今でも忘れられないが、今は大体今夜のミュンフンのようなスタイルなのであまり驚かない。それでも今夜のミュンフンはなかなかのドライブだった。
しかし、彼の真骨頂はすでに記したように、ホセとカルメンの絡む愛憎劇の場面だろう。ここでの音楽と歌は軌を一にして実に素晴らしいものだった。
自宅に帰ったら、23時。やはり18時半くらいにはじめてもらえんかなあ!
〆
於:サントリーホール(2階5列中央ブロック)
東京フィルハーモニー交響楽団、第932回定期公演
ビゼー「カルメン」・演奏会形式
指揮:チョン・ミュンフン
カルメン:マリーナ・コンパラート
ドン・ホセ:キム・アルフレード
エスカミーリョ:チェ・ビョンソク
ミカエラ:アンドレア・キャロル
ダンカイロ:上江隼人
レメンダート:清水徹太郎
フラスキータ:伊藤 晴
メルセデス:山下牧子
新国立劇場合唱団、杉並児童合唱団
「カルメン」全曲を演奏会形式とはいえ、定期にはめ込むとは、なんとも豪華なプログラムではあるまいか?N響も負けずにやるそうだが、あれは定期ではなく、特別公演だからまた別な話だ。今夜は定期公演と同じ19時開始なのである。休憩を1回はさんで、終演は21時50分頃だった。大変疲れたが面白かったし、ビゼーのカルメンと云うのはもうもったいないくらい名曲がぎっしりつまっているなあ、とあらためて痛感した。なお、実際の演奏時間は135分であった。
演奏会形式だが、舞台上に譜面台を置いて歌うという形式ではなく、簡単な演技をしながら行うというもので、今の歌手たちは実に器用なものだ。カルメンと云うオペラは現在はオペラコミック形式のせりふ付きでオペラハウスでは上演されることが多い。ただ昔はギロー版といってせりふをレチタティーヴォにして歌われる形態が多かった。カラヤンの旧盤(ウイーンフィル)などはその例である。
しかし、今夜の公演ではそのどちらでもなく、せりふ、レチタティーヴォは皆無に近い。したがって歌のナンバー1の導入部から26のカルメンとホセの2重唱で締めくくる終曲までを続けて聴くことになる。印象としては名曲コンサート風で歌い手が次から次へと登場してそれぞれが歌うという塩梅で、劇場で聴くようにドラマを感じるようにはなかなかならないのが欠点だろう。
とはいっても2幕の「花の歌」の前のカルメンの繰り言からあたりから、2幕の幕切れまではさすがに手に汗握るやりとりで、オペラを聴いたなあと云う気分。3幕の幕切れ、4幕の幕切れ、いずれもホセとカルメンの絡むシーンはドラマである。またこの部分でのオーケストラの音楽も新国立で鍛えただけあって、見事なものだった。結局この全曲あっという間に聴き終え、このようなスタイルもなかなかいいものだなあと感じた。
歌い手は主役から脇まで締まっている。カルメンのコンパラートはカルメンを得意にしているらしい。
ハバネラやセギデリアではお色気むんむんというわけにはいかないが、上記のホセと絡むシーンでの奔放な女としての生きざまは十分に感じられた。ただサントリーホールはオーケストラホールで残響が長いのがコンパラートには少々災いをしたのか、声が通らない部分もあった。
ホセのアルフレードは今日もっとも感動させられた。女々しい極みのホセだけれど、男なら一度はこういう気持ちにさせられたことはあるだろう。そういう記憶を呼び戻させられる歌唱だった。特に「花の歌」は絶唱。
ミカエラも素晴らしい。役柄にあった楚々とした声は、ホールに透明感を保ちながら通る。3幕のアリアが素晴らしかった。ドン・ホセはまずまず。
脇に回った邦人の中では山賊とその仲間たち(ダンカイロ、レメンダート、フラスキータ、メルセデス)がそれぞれ存在感を示し、舞台を締めていた。2幕の5重唱の軽妙さ、忘れられない歌唱だろう。
合唱も素晴らしいがとりわけ素晴らしいのは児童合唱だ。おそらく徹底的に鍛えられたのだろう、明晰な発音でホールの中に響きわたり気持ちよい。特に4幕の闘牛士たちの登場シーンは素晴らしい。
チョン・ミュンフンはもう自家薬籠中の曲なのだろう、暗譜で演奏していた。彼のシンフォニーなどでの演奏でも感じられる、音楽の強弱緩急のめりはりが、オペラでは一層効果的に響く。2幕のリリャス・パスチャの酒場で始まるシーン、最初は猛烈に遅く、最後は狂ったようにオーケストラを煽る。素晴らしい効果である。昔は例えば、カラス盤(指揮プレートル)などではこのようには演奏しない。こういう演奏をするようになったのはアルコア版(オペラコミック版)が演奏されるようになってからだろう。CDではマゼール盤(カルメンはアンナ・モッフォ、ホセはコレルリ)が最初のはずだ。あのときの衝撃は今でも忘れられないが、今は大体今夜のミュンフンのようなスタイルなのであまり驚かない。それでも今夜のミュンフンはなかなかのドライブだった。
しかし、彼の真骨頂はすでに記したように、ホセとカルメンの絡む愛憎劇の場面だろう。ここでの音楽と歌は軌を一にして実に素晴らしいものだった。
自宅に帰ったら、23時。やはり18時半くらいにはじめてもらえんかなあ!
〆