2019年2月27日
「ハンニバル戦争」、佐藤賢一著、中公文庫
紀元前3世紀のローマの危機、すなわちハンニバルのローマ侵攻について、史実を骨格に、フィクションも織り交ぜ、描いた。佐藤氏の著作はみなとても読みやすく、今回も同じ。
ただし、ここではハンニバルが主人公ではなく、ハンニバルと3度戦い敗れたスキピオの立場で書かれている。スキピオが17歳のころから、ザマの戦いで勝利を得るまでの苦難、苦悩が軸である。ハンニバルの天才的な戦術に、ローマ軍は完膚無きままに打ち破られ、イタリア半島の最大の激戦、カンナエの戦いでは、包囲殲滅作戦により、ほぼ全滅に近い7万人の犠牲を出した。包囲殲滅作戦とは中央の重装歩兵と両翼のヌビア騎兵の電撃戦との連携によるもので、古来の戦史の中でも燦然と輝く作戦である。
スキピオはそのカンナエの戦いから逃れられた数少ない将校であり、彼はこの敗因について徹底的に研究し、ハンニバルの作戦を学習する。
本書の第一部は「カンナエの戦い」で、ピレネーを越えたハンニバルのローマでの負けを知らない幾多の戦いを描く。もちろんそれは打ち破られたスキピオの視点で描かれる。
第二部は「ザマの戦い」でハンニバルの戦略を学習したスキピオがイベリア半島での戦いでそれを実践し、やがて、アフリカでのハンニバルとのザマでの戦いで勝利を得るまでを描く。
スキピオの描写が少々ユーモラスな点が気に入らないが、反面同じ天才でも天賦の天才型のハンニバルと努力型の天才のスキピオという構図を明らかにしており、読み手にはわかりやすい描写であることは間違いあるまい。
塩野七生さんのローマ人の歴史とは一味も二味も違う「小説」だが、面白いことは塩野ローマをしのぐ。
惜しいのは戦いの布陣図がカンナエとザマだけというのは寂しい。もう少し丁寧に各戦場を図示してほしい。また地図も簡単すぎて少し物足りない。小説だからいたしかたないとはいえ、歴史小説ならその程度の気配りは欲しい。
〆
「ハンニバル戦争」、佐藤賢一著、中公文庫
紀元前3世紀のローマの危機、すなわちハンニバルのローマ侵攻について、史実を骨格に、フィクションも織り交ぜ、描いた。佐藤氏の著作はみなとても読みやすく、今回も同じ。
ただし、ここではハンニバルが主人公ではなく、ハンニバルと3度戦い敗れたスキピオの立場で書かれている。スキピオが17歳のころから、ザマの戦いで勝利を得るまでの苦難、苦悩が軸である。ハンニバルの天才的な戦術に、ローマ軍は完膚無きままに打ち破られ、イタリア半島の最大の激戦、カンナエの戦いでは、包囲殲滅作戦により、ほぼ全滅に近い7万人の犠牲を出した。包囲殲滅作戦とは中央の重装歩兵と両翼のヌビア騎兵の電撃戦との連携によるもので、古来の戦史の中でも燦然と輝く作戦である。
スキピオはそのカンナエの戦いから逃れられた数少ない将校であり、彼はこの敗因について徹底的に研究し、ハンニバルの作戦を学習する。
本書の第一部は「カンナエの戦い」で、ピレネーを越えたハンニバルのローマでの負けを知らない幾多の戦いを描く。もちろんそれは打ち破られたスキピオの視点で描かれる。
第二部は「ザマの戦い」でハンニバルの戦略を学習したスキピオがイベリア半島での戦いでそれを実践し、やがて、アフリカでのハンニバルとのザマでの戦いで勝利を得るまでを描く。
スキピオの描写が少々ユーモラスな点が気に入らないが、反面同じ天才でも天賦の天才型のハンニバルと努力型の天才のスキピオという構図を明らかにしており、読み手にはわかりやすい描写であることは間違いあるまい。
塩野七生さんのローマ人の歴史とは一味も二味も違う「小説」だが、面白いことは塩野ローマをしのぐ。
惜しいのは戦いの布陣図がカンナエとザマだけというのは寂しい。もう少し丁寧に各戦場を図示してほしい。また地図も簡単すぎて少し物足りない。小説だからいたしかたないとはいえ、歴史小説ならその程度の気配りは欲しい。
〆