2019年1月31日
「雪の階」、奥原 泉著、中央公論社
600ページ近い大作である。時代背景(1935~6年)に興味を持ち読み始めたが、なかなか核心が見えてこないのでイラつくが、そのうち次第にいろいろな景色が見えてくる。そういうスタイルだ。文章は装飾音の多いバロック音楽のようで、枝葉末節が多いように感じるが、それがこの作品の奥行きと形式を築き上げている。例えば主人公の笹宮惟佐子の絢爛たる衣装の描写だけ見てもそれが感じられよう。帯封にミステリー・ロマンとあるが、私は昭和の大河ドラマ、絵巻物と形容したくなる。もう一つ文体も特徴的で、今この人と話しているのに、ほんの一言でもう違う人との会話であり、違う場面になってしまう不思議なもの。飛ばし読みする方には面倒な本かもしれない。
この作品にはいろいろな要素が含まれている、ヒロインの惟左子の友人、寿子の情死事件の謎解き、華族である惟左子を中心としたどろどろとした家庭ドラマ? 惟佐子の友人、千代子と新聞記者蔵原による探偵物語、ドイツのスパイの暗躍、新興宗教やナチスの民族醇化、2・2・6事件前夜の昭和の社会模様、天皇機関説への毀誉褒貶、決起する兵士や将校若者たちの行動。そして何より魅力なのは、惟佐子自身の持つ魅力。美貌にもかかわらず,底を見せない得体のしれないところのある性格、数学や囲碁に趣味がある、家族の令嬢には珍しい行動、さらには奔放な性行動など。ようするにこういった要素が渾然一体となってクライマックスの2・2・6事件に向かうのである。
物語の本線は京都の公家出身の笹宮伯爵の長女惟佐子の友人のこれも華族の宇田川寿子失踪事件である。この捜査を、惟佐子は友人の女流カメラマン見習の牧村千代子に依頼する。牧村は惟佐子の幼少のころの「おあいてさん」つまり、華族にあてがわれた安全なお友達である。牧村は知り合った蔵原と云う新聞記者に相談し捜査に協力してもらう。寿子の行動を追えば追うほど話は輻輳し、いろいろな要素が含まれてくるが最後は一つに収れんする。そしてこの本線に絡まるいろいろな伏線は上段にて例示した通り。ただしどれ一つ無駄な話はないのだ。
映画化してもらいたいが果たして惟佐子を演じられる女優がいるかどうか?
読み応えのある本だった。
〆
「雪の階」、奥原 泉著、中央公論社
600ページ近い大作である。時代背景(1935~6年)に興味を持ち読み始めたが、なかなか核心が見えてこないのでイラつくが、そのうち次第にいろいろな景色が見えてくる。そういうスタイルだ。文章は装飾音の多いバロック音楽のようで、枝葉末節が多いように感じるが、それがこの作品の奥行きと形式を築き上げている。例えば主人公の笹宮惟佐子の絢爛たる衣装の描写だけ見てもそれが感じられよう。帯封にミステリー・ロマンとあるが、私は昭和の大河ドラマ、絵巻物と形容したくなる。もう一つ文体も特徴的で、今この人と話しているのに、ほんの一言でもう違う人との会話であり、違う場面になってしまう不思議なもの。飛ばし読みする方には面倒な本かもしれない。
この作品にはいろいろな要素が含まれている、ヒロインの惟左子の友人、寿子の情死事件の謎解き、華族である惟左子を中心としたどろどろとした家庭ドラマ? 惟佐子の友人、千代子と新聞記者蔵原による探偵物語、ドイツのスパイの暗躍、新興宗教やナチスの民族醇化、2・2・6事件前夜の昭和の社会模様、天皇機関説への毀誉褒貶、決起する兵士や将校若者たちの行動。そして何より魅力なのは、惟佐子自身の持つ魅力。美貌にもかかわらず,底を見せない得体のしれないところのある性格、数学や囲碁に趣味がある、家族の令嬢には珍しい行動、さらには奔放な性行動など。ようするにこういった要素が渾然一体となってクライマックスの2・2・6事件に向かうのである。
物語の本線は京都の公家出身の笹宮伯爵の長女惟佐子の友人のこれも華族の宇田川寿子失踪事件である。この捜査を、惟佐子は友人の女流カメラマン見習の牧村千代子に依頼する。牧村は惟佐子の幼少のころの「おあいてさん」つまり、華族にあてがわれた安全なお友達である。牧村は知り合った蔵原と云う新聞記者に相談し捜査に協力してもらう。寿子の行動を追えば追うほど話は輻輳し、いろいろな要素が含まれてくるが最後は一つに収れんする。そしてこの本線に絡まるいろいろな伏線は上段にて例示した通り。ただしどれ一つ無駄な話はないのだ。
映画化してもらいたいが果たして惟佐子を演じられる女優がいるかどうか?
読み応えのある本だった。
〆