2018年2月18日
「火定」、澤田瞳子著、PHP出版
原田の作品は「若冲」以来注目している。いまもってなぜあれが直木賞を取らなかった不思議でしょうがない。まあそれはそれとして今作品は天平に時代を描いた力作である。ほぼ同時代を描いた与楽の飯も面白かったが、本作はそれに比べるとあの時代の過酷な世相がそのまま文章でよりリアルに活写されている。
聖武天皇の天平の時代、藤原氏の房前や宇合兄弟が権勢をふるう時代である。その頃発生した天然痘流行を大きな時代背景としている。そのなかで医師や官人(役人)、民などの苦闘を描いている。
主人公は光明皇后が作ったといわれている、施薬院や悲田院で働く人々。名代は良い官人の仕事を思い、施薬院で働くが、ここでの将来性のない生活に飽き飽きしている。綱手はこの施薬院という貧民のための病院の唯一の医師である。本来は皇后の官製の病院なのだから役所の病院、内薬司から見習い医師が派遣される計画だったが、貧民の治療のために,来る医師はいなかった。勢い綱手や名代らが孤軍奮闘ということになる。
そういう中で発熱状態の患者が担ぎ込まれ、それが小康状態になると疱瘡ができ死に至ってしまう。今日の天然痘である。新羅へ派遣した人々が帰国の際に持ち込んだ病だった。これが天平9年の天然痘の流行の前触れだった。
このほかにはもと内薬司の医師だった諸男も重要人物だ。無実で入牢され財産も没収、やがて恩赦で釈放されるが世の中への不平不満の塊、もうひとりその獄中で知り合った,無頼の徒,無須らが「常世の常虫」というわけのわからないまじない札を売り、病に悩む人々を惑わす。そしてこれらの話は施薬院で収れんする。本作の面白さは今一部紹介した人々のリアル感である。彼らは生身の人間であり、生の言葉でしゃべる。その筆致の優れたことに圧倒されるだろう。面白く読んだ。
たまたま、この本を読む前に「破滅の王}というウイルスものを読んだが、重なるときは重なるものだ。
〆
「火定」、澤田瞳子著、PHP出版
原田の作品は「若冲」以来注目している。いまもってなぜあれが直木賞を取らなかった不思議でしょうがない。まあそれはそれとして今作品は天平に時代を描いた力作である。ほぼ同時代を描いた与楽の飯も面白かったが、本作はそれに比べるとあの時代の過酷な世相がそのまま文章でよりリアルに活写されている。
聖武天皇の天平の時代、藤原氏の房前や宇合兄弟が権勢をふるう時代である。その頃発生した天然痘流行を大きな時代背景としている。そのなかで医師や官人(役人)、民などの苦闘を描いている。
主人公は光明皇后が作ったといわれている、施薬院や悲田院で働く人々。名代は良い官人の仕事を思い、施薬院で働くが、ここでの将来性のない生活に飽き飽きしている。綱手はこの施薬院という貧民のための病院の唯一の医師である。本来は皇后の官製の病院なのだから役所の病院、内薬司から見習い医師が派遣される計画だったが、貧民の治療のために,来る医師はいなかった。勢い綱手や名代らが孤軍奮闘ということになる。
そういう中で発熱状態の患者が担ぎ込まれ、それが小康状態になると疱瘡ができ死に至ってしまう。今日の天然痘である。新羅へ派遣した人々が帰国の際に持ち込んだ病だった。これが天平9年の天然痘の流行の前触れだった。
このほかにはもと内薬司の医師だった諸男も重要人物だ。無実で入牢され財産も没収、やがて恩赦で釈放されるが世の中への不平不満の塊、もうひとりその獄中で知り合った,無頼の徒,無須らが「常世の常虫」というわけのわからないまじない札を売り、病に悩む人々を惑わす。そしてこれらの話は施薬院で収れんする。本作の面白さは今一部紹介した人々のリアル感である。彼らは生身の人間であり、生の言葉でしゃべる。その筆致の優れたことに圧倒されるだろう。面白く読んだ。
たまたま、この本を読む前に「破滅の王}というウイルスものを読んだが、重なるときは重なるものだ。
〆