ぶんぶんのへそ曲がり音楽日記

オペラ、管弦楽中心のクラシック音楽の音楽会鑑賞記、少々のレビューが中心です。その他クラシック音楽のCD,DVD映像、テレビ映像などについても触れます。 長年の趣味のオーディオにも文中に触れることになります。その他映画や本についても感想記を掲載します。

2017年12月

2017年12月29日

「シンパサイザー」、ヴィエト・タン・ウエン著

ピューリッツアー賞など多数受賞した作品である。著者はヴェトナム人であるがアメリカで英文学の教鞭をとっている。
 1975年、ヴェトナム戦争で北ヴェトナムが侵攻し南ヴェトナムは風前の灯火、米軍や南ヴェトナム軍の幹部らの脱出前夜から始まる。
 主人公は南ヴェトナムの秘密警察長官付きの大尉だがその実は北ヴェトナムのスパイである。友人のボンは南ヴェトナムの同僚、そしてマンは北ヴェトナムのスパイ管理官でこの3人は同窓でありこの作品は3人の物語でもある。主人公並びにボンらはアメリカに移住し、元秘密警察長官(将軍)指導の下再起を図る。主人公はそれをスパイするというは話である。
 しかし、これは007風やル・カレ風のスパイ小説を期待すると大いに期待はずれである。大体話は全て主人公の一人称の語りで展開する。彼の語りで私生児としての生い立ち、サイゴン脱出行、アメリカでの生活、将軍とのクーデタ計画、日系人女性やヴェトナム女性との恋、「地獄の黙示録」思わせる映画の製作協力、クーデタのためのタイでの軍事行動などがリアルに描かれる。あとがきにもあるがこれらの記述はほとんど事実をもとにした話で組み立てられている。そしてアジアと西洋、ヴェトナムと西洋の比較文化まで踏み込んだ語りになっている。
 いままでアメリカ側から描いたヴェトナム物は映画を含めてあまたあり、見てきたわけだが、ヴェトナム人のサイドから見たヴェトナム戦争をこれだけ克明に記述した作品は初めての体験だった。そういう意味でこれはまれにみる力作だろう。ただ上下巻すべて1人称というのは、読むのに少々しんどい。しかし我慢して読むと後半の驚きの展開が待っている。

2017年12月29日

今年の映画界を振り返って思うことは実に不作だなあということだ。そのまえに私の映画へのスタンスを記そう。過去にもプロフィールに載せたと思う。
 見る映画のジャンルは基本的には下記の通りだ。
 サスペンス、アクション、推理もの、スパイ、戦争、西部劇、歴史劇、宗教にかかわる歴史、犯罪映画
 社会派,警察もの、裁判もの、SF,ホラー、オカルト、政治劇。

 ほとんど見ない映画
 コメディ、ラブロマンス、恋愛もの、青春もの,学園もの

以上の枠組みに限って言うとみるべき映画はわずか1本しかなかった。それはスコセッシ監督の
「沈黙」である。過去日本でも映画化された重いテーマの作品である。今回の作品の成功はキャストだろう。要するに西洋人と日本人の俳優に胡散臭いやつはいなく適材適所だったということだろう。特にイッセイ尾形や浅野忠信、窪塚などの邦人俳優は誠に素晴らしい演技である。この作品の重さは言うまでもないことだろうが宗教を信じる者に神が救いを差し伸べないとき信じる者は如何にすべきか?それでも教えを守るべきか、転ぶべきか?私たちの日常でも突き付けられているテーマではあるまいか?

その他はタイトルだけ列挙しよう。
・日本映画では唯一「64・ロクヨン」のみ、原作への味付けが好みの別れるところ

・「ジョイ」、普通の米女性の成り上がり物語、ジェニファー・ローレンスで見たようなもの

・「ブラック・ファイル」、これも一種の成り上がり物語だろう、薬害訴訟との絡み

・「マグニフィセント7」、リメイク版、今の西部劇の在り方を示している。

・「栄光のランナー」、ジェシー・オーエンスの物語だが、肝は人種差別である。

・「われらが背きしもの」、ル・カレの原作、設定が冴えているスパイ映画だ

・「手紙は覚えている」、ナチものだが、痴呆を絡めたユニークな作品

・「アイ・インザ・スカイ」、人と人が戦場で戦わないドローンウオーを描く

・「トランボ」、ハリウッドの赤狩りの犠牲になった天才脚本家のトランボを描く

・「ニュートン・ナイト」、南北戦争のさなか自由と平等を主張し独立州を立ち上げる男の物語

・「汚れたミルク」、パキスタンのミルク公害を描く

・「善悪の刃」、「弁護人」、2作とも韓国映画、いずれも冤罪ものだが、韓国社会を垣間見る

・「ライオン」、インドの少年の数奇な運命。

・「湿地」、珍しいアイスランドの映画、アイスランドの冷たい空気を感じる警察映画
以上はほとんどDVDで見た。映画館に行ってまで見たくなる映画がない。また何度も書いている理由だが、あのテレビジョンに毛の生えたような狭い空間で見たくない。東京でゆったりとみることができるのは有楽町のシネマコンプレックスと丸の内東映、日比谷のスカラ座くらいだろう。

2017年12月29日

「ヒットラーへの285枚の葉書」、ブレンダン・グリーソン、エマ・トンプソン主演

実話をモデルの映画の要だ。ドイツ製でなくハリウッド製というのが今一つ気に入らないが、映画はうまくその時代感覚をとらえた、暗く、沈鬱なもの。1940~43年にかけてヒトラー批判のカードを配りギロチンで斬首されたハンペル夫妻がモデル。
 映画ではオットー・クヴァルツ(グリーソン)、アンナ・クヴァルツ(トンプソン)夫妻が息子のハンスの戦死を伝える軍事郵便を受け取るところから始まる。オットーは皮肉なことに棺桶を作る木工場の職工長だ。もともとは何を作っていたかはわからないが映画の後半になると工場が棺桶の山になる。
 クヴァルツ夫妻は総統に殺されたと深く恨みを持つ。やがて夫婦は絵葉書にナチスや総統への批判のメッセージを書いたカードを町の中に配り始める。「ヒトラーへの葉書」という邦題は正確でなく、ヒトラー宛にだされた郵便ではなく、毎日少しづつ町中にカードが置かれてゆくということだ。その数総計285枚である。なお原題は「ALONE IN BERIN」、二人きりのベルリンといったような意味だろう。
 その間ユダヤ老婦人への迫害、それを守る老判事の逸話や、成り上がりの親衛隊とエリート警部との確執などが織り交ぜられる。
 それにしてもギロチンでの斬首などというのは1943年にいまだ行われていたというのは驚きとしか言いようがない。
 クヴァルツ夫妻の夫婦愛、息子を失った深い悲しみを2人のベテラン俳優が訥々と演じていた。エリート警部役もうまく、見て損のない映画だろう。

2017年12月28日

今年の読書を振り返る。今年はよい本がたくさんあった。

まず、ベストファイブ
1.たゆたえども沈まず 原田マハ著
 ゴッホと日本人の画商の邂逅。思いもよらない事実と著者の想像力に驚く。

2.ゲームの王国 小川 哲著
 近未来を描いた実に面白いSFだ。なによりカンボジアを舞台にした視点が素晴らしい。ポルポトから始まって、現在そして未来のカンボジアを描くが描いた本質はカンボジアにとどまらない。

3.地の声 塩田武士著
 グリコ・森永事件をモデルにした緻密な作品。ノンフィクションか小説か?

4.ライト兄弟 デヴィッド・マカルー著
 ライト兄弟の伝記だが、開発秘話だけでなく兄弟の人物像を丁寧に描いた力作

5.伊藤潤の作品
  「走狗」川路利良を描く、「西郷の首」は前田家の下級武士を描く。焦点を当てる人物の発掘がいつもとても驚かされる。

別格に面白い本
 「銃撃戦映画のすべて」青井邦夫著
 マイケルマンの「ヒート」を頂点に、銃撃戦映画の歴史を描く。この分野の映画好きにはたまらない作品だ。

以下面白かった作品を列記する。
・阿蘭陀西鶴 朝井まかて著 
・籠の鸚鵡 辻原 登著
・蜜蜂の雷鳴 恩田 陸著
・張作霖 杉山裕之著
・会津執権の栄誉 佐藤厳太郎著
・未完のファシズム 片山杜秀著
・おもちゃ絵 芳藤 谷津矢車著
・バッタを倒しにアフリカへ 前野ウルド浩太郎著
・龍が泣く 秋山香乃著
・13・67 陳 浩基著
・シュー・ドッグ フィル・ナイト著
・宗麟の海 安部龍太郎著
・シンパサイザー ヴィエト・タン・ウエン著

これらはどれも面白い作品だ。この年になって実に読書が楽しい。良い年だった。
〆 

2017年12月26日

「スイッチ・オフ」
原題はIN TO THE FORESTである。小説の映画化である。視点はとても面白いパニック&サヴァイヴァル映画である。時代は近未来、アメリカの地方都市が舞台のようだ。いまでもなりつつあるがそのころは家電はすべて音声で応答、本はパソコン、勉強もパソコンの時代。電気の供給がすべて止まってしまうという設定である。エヴァとネルそして父親と3人は森の中の素敵な一軒家に住んでいる。ガソリンが足りなくなり、街に出るが町は食料もガソリンもなく荒廃としていた。家族は森になかでこの大災害をやり過ごそうとする。
しかし、父親が木を切っているときに事故で死亡してしまう。

 それからが、姉妹のサヴァイヴァルだ。危難は次から次へと二人を襲うが力を合わせて乗り切るという姉妹愛の物語。しかし、さて、原作も読んでいないにもかかわらず偉そうなことは言えないが、果たして作者の狙いはそこにあったのか?モチーフは電気に頼った現代社会への強烈な皮肉・警鐘なのではなかったか?その「毒」が姉妹愛にごまかされて薄まっているのが残念。したがってたくましく生き抜く妹のネルが百科事典を首っ引きのサヴァイヴァルのあの手この手をさらさらとやってしまったのは仕方がないことなのだろう。もったいない作りだった。それにしてもアメリカの家というのは1年半程度で梁が落ち、崩壊してゆくほど安普請なのだろうか?半年もしないうちに雨漏りだらけの家になってしまうのだ。森の中だったからだろうか?時間は100分の映画だが視点がそらされたのが残念だ。

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