2017年9月29日
於:東京文化会館(1階15列中央ブロック)
バイエルン国立歌劇場来日公演2017
指揮:アッシャー・フィッシュ
演出:アウグスト・エヴァーディング
ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
弁者:ヨハン・ローター
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミューラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ
パパゲーナ:エルザ・ベノワ
モノスタトス:ウルリッヒ・レス
3人の童子:テルツ少年合唱団
第一の侍女:ヨハンニ・フォン・オオストラム
第二の侍女:ラハエル・ウイルソン
第三の侍女:アンナ・ラプコフスカヤ
管弦楽:バイエルン国立管弦楽団
合唱:バイエルン国立歌劇場合唱団
モーツァルトの「魔笛」は何度もかいているけれど苦手なオペラの一つだ。人気があり聴く機会も多いのに残念なのだが!ばかばかしいストーリー、陳腐な歌詞、王子、鳥刺し、夜の女王、ザラストロなどのおとぎの国のような役柄などがどうしても目や耳が受け付けなかった。それでもこのごろと書きをよく読んだり、いろいろ聞きこんできて修練をしてゆくにつれタミーノなみに成長しているようで、カラヤンのレコードを聴いて楽しむことができるようになってきた。それでも積極的に聴くのはフィガロやドンジョバンニが圧倒的に多いのだ。
さて、今日のバイエルンの公演、これは何という素晴らしさであろうか?恥ずかしながら魔笛を聴いていて涙が止まらなかったのはいかなるわけか?
第2幕のパパゲーノには大いに感動した。第23場20番のアリア、なんと人間の本質を突いた「パパゲーノの歌だろう。飲み食いとかわいい恋人これさえあれば人生万歳というシンプルな生き様を素晴らしい音楽が彩る。27場のパミーナの歌は感動的、タミーノの試練の場は正直詰まらないが、そのあとの第29場、パパゲーノがパパゲーナを知ったための身を焦がすような愛を感じ、しかし自分の意志の弱さがパパゲーナと自分を隔てる、そして絶望で首を吊ろうとする。その時現れる3人の童子の歌のなんと素敵なことか、そしてグロッケンを鳴らすとなんとパパゲーナが現れる。この後のパパゲーノとパパゲーナの2重唱の素晴らしさ。ここで流れる涙は彼らの幸せを見て、こちらも豊かな気持ちになり、そして幸せな気持ちになるから流れるのだ。もう何年もこんな幸せな涙を流したことがない。しかしモーツアルトの音楽はそれを骨の髄から味合わせてくれる。この場面、真の人間の幸せは何かを鋭く解き明かしている。
政治家の皆さんはくだらない和合の相談をする暇があるならばこの「魔笛」を見たまえ。われらが庶民の代表のパパゲーノが人間は何をもって幸せになるのかを指示して呉れよう。
さて、今日の音楽の素晴らしさについてもう少し付け加えたい。アッシャー・フィッシュの作る音楽だ。これは今どきの古楽風のとんがった演奏は皆無である。わずかに乾いたティンパニにそれを感じるが全体に、音楽は上品に、優雅に、柔らかく進む。実にふんわりとしたバイエルンのマスとしての音響の魅力だ。要するに無駄な力を入れずに、陳腐な言い方をすればモーツアルトに歌わせているのだとしか思えない。これはたぶん今ではオリジナリティのある演奏の部類になってしまうのだろうが、私はとても気に入ったのだ。細かい話だがいつもは埋没するグロッケンの響きをこれだけ盛大にならした演奏は初めてだ。いつもはもう少し大きくしてくれないかなと欲求不満がたまっていたが実にすっきり。まさかスピーカーで増幅はしていないと思うのだが?なお、演奏時間は155分強。
歌い手は名前も声も聴くのは初めての人ばかりだが、バランスが非常に取れていたのではないだろうか?パパゲーノ、パミーナが特に素晴らしい感動をくれた。夜の女王は、非人間的な部分が弱く、人間の情の面を強く感じた、こういう女王もあってよいだろう。声は細身だがすっきりと伸び切って気持ちよい。タミーノは私が最も感情移入できない役柄なので申し訳ないがなんとも言えない。モノスタトスはあまり悪人にもブッファ的にも思えない中間的の印象で半端。ザラストロのサルミネンは昨日のタンホイザーを見に来ていたが実にでかい人で驚くばかり。きさくにサインに応じていた。ただ今日の歌は少し年を取ったかなあという印象。まあ役柄がこうだからよいのだろう。3人の童子はバイエルンのDVDで聴くよりずっと清潔でうまいと思った。とにかくよいバランスだった。
演出はエヴァーディングの古典的なもの。プルミエが1978年、2004年に改訂されて、いまだに今日のように公演されているのだからすごいものだ。この演出はDVDやクラシカ・ジャパンでも放映されているのでおなじみなので詳しくは書く必要もなかろう。このオペラを楽しむのに十分な舞台と演出だろう。私が見た映像はサヴァリッシュの盤だが今回の公演と大きな違いは無いように思った。このサヴァリッシュの演奏を聴いているとアッシュの演奏のほうがスマートに聞こえるのも面白い。たとえば上記のパパゲーノのアリア20番などがそうだ。
今回の魔笛公演は正直あまり期待していなかったが、実に楽しめた公演だった。なお今夕の公演の終演後、舞台にはオーケストラのメンバー、合唱団、裏方全員が登場。NBSの用意した垂れ幕もあり、観客は総立ちのスタンディングオベイション。
〆
於:東京文化会館(1階15列中央ブロック)
バイエルン国立歌劇場来日公演2017
指揮:アッシャー・フィッシュ
演出:アウグスト・エヴァーディング
ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
弁者:ヨハン・ローター
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミューラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ
パパゲーナ:エルザ・ベノワ
モノスタトス:ウルリッヒ・レス
3人の童子:テルツ少年合唱団
第一の侍女:ヨハンニ・フォン・オオストラム
第二の侍女:ラハエル・ウイルソン
第三の侍女:アンナ・ラプコフスカヤ
管弦楽:バイエルン国立管弦楽団
合唱:バイエルン国立歌劇場合唱団
モーツァルトの「魔笛」は何度もかいているけれど苦手なオペラの一つだ。人気があり聴く機会も多いのに残念なのだが!ばかばかしいストーリー、陳腐な歌詞、王子、鳥刺し、夜の女王、ザラストロなどのおとぎの国のような役柄などがどうしても目や耳が受け付けなかった。それでもこのごろと書きをよく読んだり、いろいろ聞きこんできて修練をしてゆくにつれタミーノなみに成長しているようで、カラヤンのレコードを聴いて楽しむことができるようになってきた。それでも積極的に聴くのはフィガロやドンジョバンニが圧倒的に多いのだ。
さて、今日のバイエルンの公演、これは何という素晴らしさであろうか?恥ずかしながら魔笛を聴いていて涙が止まらなかったのはいかなるわけか?
第2幕のパパゲーノには大いに感動した。第23場20番のアリア、なんと人間の本質を突いた「パパゲーノの歌だろう。飲み食いとかわいい恋人これさえあれば人生万歳というシンプルな生き様を素晴らしい音楽が彩る。27場のパミーナの歌は感動的、タミーノの試練の場は正直詰まらないが、そのあとの第29場、パパゲーノがパパゲーナを知ったための身を焦がすような愛を感じ、しかし自分の意志の弱さがパパゲーナと自分を隔てる、そして絶望で首を吊ろうとする。その時現れる3人の童子の歌のなんと素敵なことか、そしてグロッケンを鳴らすとなんとパパゲーナが現れる。この後のパパゲーノとパパゲーナの2重唱の素晴らしさ。ここで流れる涙は彼らの幸せを見て、こちらも豊かな気持ちになり、そして幸せな気持ちになるから流れるのだ。もう何年もこんな幸せな涙を流したことがない。しかしモーツアルトの音楽はそれを骨の髄から味合わせてくれる。この場面、真の人間の幸せは何かを鋭く解き明かしている。
政治家の皆さんはくだらない和合の相談をする暇があるならばこの「魔笛」を見たまえ。われらが庶民の代表のパパゲーノが人間は何をもって幸せになるのかを指示して呉れよう。
さて、今日の音楽の素晴らしさについてもう少し付け加えたい。アッシャー・フィッシュの作る音楽だ。これは今どきの古楽風のとんがった演奏は皆無である。わずかに乾いたティンパニにそれを感じるが全体に、音楽は上品に、優雅に、柔らかく進む。実にふんわりとしたバイエルンのマスとしての音響の魅力だ。要するに無駄な力を入れずに、陳腐な言い方をすればモーツアルトに歌わせているのだとしか思えない。これはたぶん今ではオリジナリティのある演奏の部類になってしまうのだろうが、私はとても気に入ったのだ。細かい話だがいつもは埋没するグロッケンの響きをこれだけ盛大にならした演奏は初めてだ。いつもはもう少し大きくしてくれないかなと欲求不満がたまっていたが実にすっきり。まさかスピーカーで増幅はしていないと思うのだが?なお、演奏時間は155分強。
歌い手は名前も声も聴くのは初めての人ばかりだが、バランスが非常に取れていたのではないだろうか?パパゲーノ、パミーナが特に素晴らしい感動をくれた。夜の女王は、非人間的な部分が弱く、人間の情の面を強く感じた、こういう女王もあってよいだろう。声は細身だがすっきりと伸び切って気持ちよい。タミーノは私が最も感情移入できない役柄なので申し訳ないがなんとも言えない。モノスタトスはあまり悪人にもブッファ的にも思えない中間的の印象で半端。ザラストロのサルミネンは昨日のタンホイザーを見に来ていたが実にでかい人で驚くばかり。きさくにサインに応じていた。ただ今日の歌は少し年を取ったかなあという印象。まあ役柄がこうだからよいのだろう。3人の童子はバイエルンのDVDで聴くよりずっと清潔でうまいと思った。とにかくよいバランスだった。
演出はエヴァーディングの古典的なもの。プルミエが1978年、2004年に改訂されて、いまだに今日のように公演されているのだからすごいものだ。この演出はDVDやクラシカ・ジャパンでも放映されているのでおなじみなので詳しくは書く必要もなかろう。このオペラを楽しむのに十分な舞台と演出だろう。私が見た映像はサヴァリッシュの盤だが今回の公演と大きな違いは無いように思った。このサヴァリッシュの演奏を聴いているとアッシュの演奏のほうがスマートに聞こえるのも面白い。たとえば上記のパパゲーノのアリア20番などがそうだ。
今回の魔笛公演は正直あまり期待していなかったが、実に楽しめた公演だった。なお今夕の公演の終演後、舞台にはオーケストラのメンバー、合唱団、裏方全員が登場。NBSの用意した垂れ幕もあり、観客は総立ちのスタンディングオベイション。
〆