2017年8月29日
今月最も印象に残った映画はマーティン・スコセッシ監督の「沈黙」である。遠藤周作の小説の映画化である。日本のキリスト教が禁令になり久しい、そして多くの日本の教徒が処刑されていった1840年。背教者となった師、フェレイラを追って日本に潜入したロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)の物語である。教徒たちが残忍な迫害を受ける中、神が沈黙を保つのはいかなるわけか?ロドリゴはその信仰に次第に疑問を感じてゆく。そして行くつく先には背教の道が待っているのだが?
これは信仰への疑問が主題だが、一方キチジロウのようになんども棄教してはまた懺悔をして許されるという行動をとる男もいるのだ。この作品は小説で読むより、映画やオペラなど映像で見ると、ロドリゴと同じくらいキチジロウ(窪塚洋介)の生き方に光を当てられているように感じる。それはキチジロウが私たち普通の人間の代表だからだろう。誰もが信仰のために命を捨てられるのか?いやそうではあるまい。キチジロウの生き方はむしろ普通なのではあるまいか?
この映画を見て改めて感じたのはキリスト教の傲慢さである。キリスト教というよりも一神教というべきか?
日本人の役者がうまく映画に深みを与えている。例えば奉行のイッセイ・オガタや通詞の浅野忠信がその例である。
「ラ・ラ・ランド」は楽しい映画だ。昔はウエストサイド物語などミュージカルはよく見たがこのラ・ラ・ランドは久しぶりのミュージカルだ。ラブロマンスであり、夢追う人々の成功の物語である。これを見ているとプッチーニの「ラ・ボエーム」と重なる。ミミとロドルフォの悲恋はエマ・ストーンとライアンゴズリングとの恋につながる。まあミミは死ぬけれどエマは死なない!
これはもうアメリカでしか作れない映画だろう。なぜならどん底の二人の生活を見ればわかるだろう。音楽は「city of star」をはじめ皆楽しい。ただ画面を圧倒するダンスはミュージカルでは定番だろうが、本作では冒頭の高速道路の上の踊りくらいなのが少し物足りない。エマ・ストーンの演技は印象に残る。
こういうラブロマンスを見てももう心がときめかないのはとても寂しいことだ。
「ニュートン・ナイト/自由の旗を掲げた男」マシュー・マコノヒー主演、原題は「free state of jones」
1862年、南北戦争も膠着状態のころのミシシッピ州、黒人奴隷を20人以上保有する農園の長男は徴兵が免除されるという法律が南部連邦で成立する。1兵士のニュートンナイトはこんな金持ちの戦争のために死にたくないと脱走。やがて脱走兵と脱走奴隷を組織して南軍にも北軍にも属さないジョーンズ自由州を作る。そして南北戦争が終わるが、次にニュートンナイトは解放された奴隷、黒人の人権のために戦う。彼自身クレオールのレイチェルと結婚する。しかしこの結婚が彼らの子孫に影響を与えるのである。レイチェルの血を1/8受け継いだ子孫が白人の女性と結婚する。しかしそれは1950年ころのミシシッピでは違法だったのである。自由の国アメリカだがそれは一部の人の自由であって、実は多くの人が自由を享受していないということを描いている。昨今のアメリカの分断状態の原型を見る思いである。力作であるが、最後が少々尻つぼみなのが残念。
今月はこの3作が面白かったが、あとはぱっとしない。
「ディスクローズ」はロバート・デュバルが監督主演、娘まで出演している。
スコット・ブリッグス(デュバル)はテキサスの大牧場主、15年前に彼の3男のベン(ジェームズ・フランコ)が恋人のジミーと一緒にいたところを父親に見つかる。スコットはベンを勘当してしまう。そしてジミーが行方不明になる。15年後ジミーの母親がテキサスレンジャーに再捜査の依頼をする。担当はサマンサ・ベイン捜査官(ルチアナ・デュバル)、捜査の渦中でベン親子の存在が浮かび上がってくる。同性愛がテキサスではまだまだ認知されていない、それを含めてテキサスの空気が伝わるような映画だ。サスペンスだが実は親子愛の物語。
「クリミナル」ケビン・コスナー主演
豪華な配役で驚かされる。ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ、ライアン・レイノルズなど。話も複雑で書くのが嫌になる。
ビル(レイノルズ)はCIAロンドン支局員、彼のもとにダッチマンと称するハッカーから亡命を持ち掛けられる。ダッチマンはヘイムダールというスペインのテロリストのもとで、米国のミサイルの制御をするソフトを開発したが、怖気づき、そのソフトを亡命の交換条件にしたのである。ヘイムダールはビルをとらえダッチマンの居所をはかせようとするが失敗し殺してしまう。CIAのウエルズ(オールドマン)はビルの脳内の記憶を無感情のサイコパス、ジェリコ(コスナー)に移すことをフランクス教授(ジョーンズ)に依頼する。こんなことができたら警察も楽だろう。話としては面白いが最後はみなとても都合よくなって終わるというちょっとばかばかしいお話だ。
「キングコング・髑髏島」
1973年ランドサットが謎の島を撮影する。そこは島中が嵐で覆われていてアクセス困難な島だった。モナークという研究財団がそこに巨大生物が生息していることを突き止め調査団を編成する。軍も協力、ヘリコプター騎兵団を派遣する。そして島に突入する。カーツ大佐のような狂信的な大佐(サミュエル・L・ジャクソン)、コンラッドという元英国陸軍将校、タイムの女カメラマンなども加わる。そこには地獄の黙示録のような原住民が住んでおり、2次大戦時に不時着したパイロットが同居している。そしてそこは巨大猿キングコングなど巨大生物の棲む島だったのだ。
キングコングを中心としてなりたっていた生態系を人間が破壊するというお定まりのお話。コンラッドの「闇の奥」や「地獄の黙示録」のパクリのようでもある。
「メッセンジャー」原題は「MAGELLAN・マジェラン」
土星と海王星の惑星エリスとトリトンから人工的に合成された電波が発信された。米国防相とNASAは宇宙探査衛星マゼランを有人で飛ばすことにする。ロジャー・ネルソン大尉がその任務に就く。なんと一人で三つの星を回ってその電波の発信源を持って帰るという任務なのだ。もうこの辺から嫌になる話だ。同時に中国も宇宙船を飛ばすという安易な設定。はたしてその電波は地球外の生命体の発信したものなのか?
2001年宇宙の旅を思わせる作りだ。もうすこし本当らしく作れないものか?
「ゴッド・オブ・ウォー/導かれし勇者たち」
原題はBLACK DEATH、1348年ペストの蔓延するヨーロッパ、修道士オズモンド(エディ・レッドメイン)はふるさとの恋人に会うために、教皇の特別使節ウルリク(ショーン・ビーン)らの道案内を引き受ける。ウルリクの使命はこのペストが蔓延する中で、大湿原の奥にある村には一人も病人がいないということ、またキリスト教を棄教していることを調べることであった。やがて彼らはその村にたどり着くがそこは女黒魔術師(偽物らしい)が支配する村で、豊かな平和な村だった。地獄の中のユートピアのような村、その当時の人々には夢のような存在だったろう。ペストすら神が与えたものとする教皇には許せなかったのだろう。中世の暗黒の1ページを切り取ったような作品だ。
「パッセンジャー」ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット主演
プレストン(プラット)はエンジニアでコロニー惑星ホームステッド兇悗琉椽擦里燭瓩鳳宙船アヴァロンに乗船している。それはクルー258人、乗客5000人の巨大宇宙船だった。120年の冬眠の旅だった。しかし冬眠ブースの故障でプレストンだけ90年早く目が覚めてしまう。そして孤独な1年が過ぎる。話し相手はロボットのバーテン、アーサー(マイケル・シーン、懐かしい)のみ。やがて彼は耐え切れずにあることを行う決意をする。一種のサバイバルものだろうが、中身はラブロマンス。そこが物足りないところ。
〆
今月最も印象に残った映画はマーティン・スコセッシ監督の「沈黙」である。遠藤周作の小説の映画化である。日本のキリスト教が禁令になり久しい、そして多くの日本の教徒が処刑されていった1840年。背教者となった師、フェレイラを追って日本に潜入したロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)の物語である。教徒たちが残忍な迫害を受ける中、神が沈黙を保つのはいかなるわけか?ロドリゴはその信仰に次第に疑問を感じてゆく。そして行くつく先には背教の道が待っているのだが?
これは信仰への疑問が主題だが、一方キチジロウのようになんども棄教してはまた懺悔をして許されるという行動をとる男もいるのだ。この作品は小説で読むより、映画やオペラなど映像で見ると、ロドリゴと同じくらいキチジロウ(窪塚洋介)の生き方に光を当てられているように感じる。それはキチジロウが私たち普通の人間の代表だからだろう。誰もが信仰のために命を捨てられるのか?いやそうではあるまい。キチジロウの生き方はむしろ普通なのではあるまいか?
この映画を見て改めて感じたのはキリスト教の傲慢さである。キリスト教というよりも一神教というべきか?
日本人の役者がうまく映画に深みを与えている。例えば奉行のイッセイ・オガタや通詞の浅野忠信がその例である。
「ラ・ラ・ランド」は楽しい映画だ。昔はウエストサイド物語などミュージカルはよく見たがこのラ・ラ・ランドは久しぶりのミュージカルだ。ラブロマンスであり、夢追う人々の成功の物語である。これを見ているとプッチーニの「ラ・ボエーム」と重なる。ミミとロドルフォの悲恋はエマ・ストーンとライアンゴズリングとの恋につながる。まあミミは死ぬけれどエマは死なない!
これはもうアメリカでしか作れない映画だろう。なぜならどん底の二人の生活を見ればわかるだろう。音楽は「city of star」をはじめ皆楽しい。ただ画面を圧倒するダンスはミュージカルでは定番だろうが、本作では冒頭の高速道路の上の踊りくらいなのが少し物足りない。エマ・ストーンの演技は印象に残る。
こういうラブロマンスを見てももう心がときめかないのはとても寂しいことだ。
「ニュートン・ナイト/自由の旗を掲げた男」マシュー・マコノヒー主演、原題は「free state of jones」
1862年、南北戦争も膠着状態のころのミシシッピ州、黒人奴隷を20人以上保有する農園の長男は徴兵が免除されるという法律が南部連邦で成立する。1兵士のニュートンナイトはこんな金持ちの戦争のために死にたくないと脱走。やがて脱走兵と脱走奴隷を組織して南軍にも北軍にも属さないジョーンズ自由州を作る。そして南北戦争が終わるが、次にニュートンナイトは解放された奴隷、黒人の人権のために戦う。彼自身クレオールのレイチェルと結婚する。しかしこの結婚が彼らの子孫に影響を与えるのである。レイチェルの血を1/8受け継いだ子孫が白人の女性と結婚する。しかしそれは1950年ころのミシシッピでは違法だったのである。自由の国アメリカだがそれは一部の人の自由であって、実は多くの人が自由を享受していないということを描いている。昨今のアメリカの分断状態の原型を見る思いである。力作であるが、最後が少々尻つぼみなのが残念。
今月はこの3作が面白かったが、あとはぱっとしない。
「ディスクローズ」はロバート・デュバルが監督主演、娘まで出演している。
スコット・ブリッグス(デュバル)はテキサスの大牧場主、15年前に彼の3男のベン(ジェームズ・フランコ)が恋人のジミーと一緒にいたところを父親に見つかる。スコットはベンを勘当してしまう。そしてジミーが行方不明になる。15年後ジミーの母親がテキサスレンジャーに再捜査の依頼をする。担当はサマンサ・ベイン捜査官(ルチアナ・デュバル)、捜査の渦中でベン親子の存在が浮かび上がってくる。同性愛がテキサスではまだまだ認知されていない、それを含めてテキサスの空気が伝わるような映画だ。サスペンスだが実は親子愛の物語。
「クリミナル」ケビン・コスナー主演
豪華な配役で驚かされる。ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ、ライアン・レイノルズなど。話も複雑で書くのが嫌になる。
ビル(レイノルズ)はCIAロンドン支局員、彼のもとにダッチマンと称するハッカーから亡命を持ち掛けられる。ダッチマンはヘイムダールというスペインのテロリストのもとで、米国のミサイルの制御をするソフトを開発したが、怖気づき、そのソフトを亡命の交換条件にしたのである。ヘイムダールはビルをとらえダッチマンの居所をはかせようとするが失敗し殺してしまう。CIAのウエルズ(オールドマン)はビルの脳内の記憶を無感情のサイコパス、ジェリコ(コスナー)に移すことをフランクス教授(ジョーンズ)に依頼する。こんなことができたら警察も楽だろう。話としては面白いが最後はみなとても都合よくなって終わるというちょっとばかばかしいお話だ。
「キングコング・髑髏島」
1973年ランドサットが謎の島を撮影する。そこは島中が嵐で覆われていてアクセス困難な島だった。モナークという研究財団がそこに巨大生物が生息していることを突き止め調査団を編成する。軍も協力、ヘリコプター騎兵団を派遣する。そして島に突入する。カーツ大佐のような狂信的な大佐(サミュエル・L・ジャクソン)、コンラッドという元英国陸軍将校、タイムの女カメラマンなども加わる。そこには地獄の黙示録のような原住民が住んでおり、2次大戦時に不時着したパイロットが同居している。そしてそこは巨大猿キングコングなど巨大生物の棲む島だったのだ。
キングコングを中心としてなりたっていた生態系を人間が破壊するというお定まりのお話。コンラッドの「闇の奥」や「地獄の黙示録」のパクリのようでもある。
「メッセンジャー」原題は「MAGELLAN・マジェラン」
土星と海王星の惑星エリスとトリトンから人工的に合成された電波が発信された。米国防相とNASAは宇宙探査衛星マゼランを有人で飛ばすことにする。ロジャー・ネルソン大尉がその任務に就く。なんと一人で三つの星を回ってその電波の発信源を持って帰るという任務なのだ。もうこの辺から嫌になる話だ。同時に中国も宇宙船を飛ばすという安易な設定。はたしてその電波は地球外の生命体の発信したものなのか?
2001年宇宙の旅を思わせる作りだ。もうすこし本当らしく作れないものか?
「ゴッド・オブ・ウォー/導かれし勇者たち」
原題はBLACK DEATH、1348年ペストの蔓延するヨーロッパ、修道士オズモンド(エディ・レッドメイン)はふるさとの恋人に会うために、教皇の特別使節ウルリク(ショーン・ビーン)らの道案内を引き受ける。ウルリクの使命はこのペストが蔓延する中で、大湿原の奥にある村には一人も病人がいないということ、またキリスト教を棄教していることを調べることであった。やがて彼らはその村にたどり着くがそこは女黒魔術師(偽物らしい)が支配する村で、豊かな平和な村だった。地獄の中のユートピアのような村、その当時の人々には夢のような存在だったろう。ペストすら神が与えたものとする教皇には許せなかったのだろう。中世の暗黒の1ページを切り取ったような作品だ。
「パッセンジャー」ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット主演
プレストン(プラット)はエンジニアでコロニー惑星ホームステッド兇悗琉椽擦里燭瓩鳳宙船アヴァロンに乗船している。それはクルー258人、乗客5000人の巨大宇宙船だった。120年の冬眠の旅だった。しかし冬眠ブースの故障でプレストンだけ90年早く目が覚めてしまう。そして孤独な1年が過ぎる。話し相手はロボットのバーテン、アーサー(マイケル・シーン、懐かしい)のみ。やがて彼は耐え切れずにあることを行う決意をする。一種のサバイバルものだろうが、中身はラブロマンス。そこが物足りないところ。
〆