2016年11月20日
於:新国立劇場(1階7列中央ブロック)
新国立劇場公演
プッチーニ「ラ・ボエーム」
指揮:パオロ・アリヴァベーニ
演出:粟國 淳
ミミ:アウレリア・フローリアン
ロドルフォ:ジャンルーカ・テッラノーヴァ
マルチェッロ:ファビオ・マリア・カピタヌッチ
ムゼッタ:石橋栄実
ショナール:森口賢二
コリーネ:松位 浩
ベノア:鹿野由之
アルチンドロ:晴 雅彦
パルピニョール:寺田宗永
新国立劇場合唱団、TOKYO FM少年合唱団
東京フィルハーモニー管弦楽団
粟國ボエームはもうこれで五回目だそうで、私はそのうち4回ほど見ているので演出については書くことはほとんどない。昨今の読み替えの多い煩わしい演出が多い中これは実にまっとうな演出であり、舞台装置であり、衣裳である。各幕はほとんどト書きに近いが、中でも美しい場面は3幕のロドルフォとミミの別れの場面である。うっすらと雪の積もったアンフェール門、二人の別れの歌の間ちらちらと雪が降る。実に繊細な舞台である。また2幕の群衆シーンも忘れられない舞台である。正面は広場になっており、右手がカフェモミュス、そのテラスにロドルフォの一行が座る、その横にムゼッタとアルチンドロ、そしてそれを取り囲む群衆。舞台も所作も全て音楽と軌を一にしているわかりやすさが何とも安心してオペラを楽しましてくれるのだ。
このところ「ナクソス島のアリアドネ」、「ワルキューレ」、「トリスタンとイゾルデ」などの重めのオペラばかり聴いてきたせいか、プッチーニの音楽が実にほっとするような素晴らしい音楽に聴こえるのだ。イタリア人の描く愛と独墺系の作曲家が描く愛とは音楽に直すと随分と違うのだということを改めて感じる。これはワーグナーの音楽のほうが高級だとかそういうことではなく(そういう方は案外多い)、全く質が違うということなのであると私は思う。
今日、久しぶりにこの曲を聴いて、大いに涙腺が緩んだわけだけれども、これはホントに素晴らしい音楽だと改めて感じた次第。1幕の2重唱にしても、2幕のあれは何重唱と云うのだろう、ロドルフォ達とムゼッタの思いがいり混ざった重唱に込められたそれぞれの思いのきめ細かさ、3幕のミミとロドルフォの別れの場面の痛切さ、そして最終幕のミミの死の場面の劇的な効果。このワーグナーのワルキューレの2幕とほぼ同じ演奏時間という短いオペラに実に多くのことや感情が詰まっているということを改めて教えられた。
指揮のアリヴァベーニは初めての指揮者だが、そういうツボを実に心得た指揮ぶり。演奏はきびきびしているようで、聞かせどころでは思い切って泣かせるように音楽を歌わせるそういう技術をもった指揮者だと思った。演奏時間は108分(拍手込み)
歌い手ではまずミミが素晴らしい。彼女はルーマニアの出身だそうだ。少々ほの暗い、深みのある声は、最初聴いた時は、ちょっと違うのではと思ったが、彼女の病や境遇を考えれば実に相応しい声で、3幕や4幕の彼女の歌唱は涙なしには聴けない、そういう聴き手の感情に訴える歌唱だった。イレアナ・コトルバスやアンゲラ・ゲオルギューらルーマニア出身の名ソプラノの系譜だろう。
ロドルフォは輝かしい声で直情径行的なロドルフォの性格を歌いきった。ただ1幕の聴きどころの「LA DOLCE SPERANZA」への道が少々連続性に欠けたような気がした。ここはもう少しのスムーズさが欲しい。全体にそう云う声の唐突感がもったいない。
その他、脇役はまずまず。邦人のコリーネやショナールはしっかりと脇を固めた。
不満だったのはマルチェッロ、声はちょっと重すぎるのではなかろうか?私にはもう少しの軽妙さ(演技ではなく声の)が欲しいのだ。ムゼッタはしたたかな女と云う面ではなるほどなあと思う歌唱だったが、コケットリーと云う面では物足りない。特に2幕のムゼッタのワルツ。もっとむんむんする女っ気が欲しい。2幕の合唱はとても充実していたように思った。
〆
於:新国立劇場(1階7列中央ブロック)
新国立劇場公演
プッチーニ「ラ・ボエーム」
指揮:パオロ・アリヴァベーニ
演出:粟國 淳
ミミ:アウレリア・フローリアン
ロドルフォ:ジャンルーカ・テッラノーヴァ
マルチェッロ:ファビオ・マリア・カピタヌッチ
ムゼッタ:石橋栄実
ショナール:森口賢二
コリーネ:松位 浩
ベノア:鹿野由之
アルチンドロ:晴 雅彦
パルピニョール:寺田宗永
新国立劇場合唱団、TOKYO FM少年合唱団
東京フィルハーモニー管弦楽団
粟國ボエームはもうこれで五回目だそうで、私はそのうち4回ほど見ているので演出については書くことはほとんどない。昨今の読み替えの多い煩わしい演出が多い中これは実にまっとうな演出であり、舞台装置であり、衣裳である。各幕はほとんどト書きに近いが、中でも美しい場面は3幕のロドルフォとミミの別れの場面である。うっすらと雪の積もったアンフェール門、二人の別れの歌の間ちらちらと雪が降る。実に繊細な舞台である。また2幕の群衆シーンも忘れられない舞台である。正面は広場になっており、右手がカフェモミュス、そのテラスにロドルフォの一行が座る、その横にムゼッタとアルチンドロ、そしてそれを取り囲む群衆。舞台も所作も全て音楽と軌を一にしているわかりやすさが何とも安心してオペラを楽しましてくれるのだ。
このところ「ナクソス島のアリアドネ」、「ワルキューレ」、「トリスタンとイゾルデ」などの重めのオペラばかり聴いてきたせいか、プッチーニの音楽が実にほっとするような素晴らしい音楽に聴こえるのだ。イタリア人の描く愛と独墺系の作曲家が描く愛とは音楽に直すと随分と違うのだということを改めて感じる。これはワーグナーの音楽のほうが高級だとかそういうことではなく(そういう方は案外多い)、全く質が違うということなのであると私は思う。
今日、久しぶりにこの曲を聴いて、大いに涙腺が緩んだわけだけれども、これはホントに素晴らしい音楽だと改めて感じた次第。1幕の2重唱にしても、2幕のあれは何重唱と云うのだろう、ロドルフォ達とムゼッタの思いがいり混ざった重唱に込められたそれぞれの思いのきめ細かさ、3幕のミミとロドルフォの別れの場面の痛切さ、そして最終幕のミミの死の場面の劇的な効果。このワーグナーのワルキューレの2幕とほぼ同じ演奏時間という短いオペラに実に多くのことや感情が詰まっているということを改めて教えられた。
指揮のアリヴァベーニは初めての指揮者だが、そういうツボを実に心得た指揮ぶり。演奏はきびきびしているようで、聞かせどころでは思い切って泣かせるように音楽を歌わせるそういう技術をもった指揮者だと思った。演奏時間は108分(拍手込み)
歌い手ではまずミミが素晴らしい。彼女はルーマニアの出身だそうだ。少々ほの暗い、深みのある声は、最初聴いた時は、ちょっと違うのではと思ったが、彼女の病や境遇を考えれば実に相応しい声で、3幕や4幕の彼女の歌唱は涙なしには聴けない、そういう聴き手の感情に訴える歌唱だった。イレアナ・コトルバスやアンゲラ・ゲオルギューらルーマニア出身の名ソプラノの系譜だろう。
ロドルフォは輝かしい声で直情径行的なロドルフォの性格を歌いきった。ただ1幕の聴きどころの「LA DOLCE SPERANZA」への道が少々連続性に欠けたような気がした。ここはもう少しのスムーズさが欲しい。全体にそう云う声の唐突感がもったいない。
その他、脇役はまずまず。邦人のコリーネやショナールはしっかりと脇を固めた。
不満だったのはマルチェッロ、声はちょっと重すぎるのではなかろうか?私にはもう少しの軽妙さ(演技ではなく声の)が欲しいのだ。ムゼッタはしたたかな女と云う面ではなるほどなあと思う歌唱だったが、コケットリーと云う面では物足りない。特に2幕のムゼッタのワルツ。もっとむんむんする女っ気が欲しい。2幕の合唱はとても充実していたように思った。
〆