2016年9月24日
於:サントリーホール(1階11列右ブロック)
東京交響楽団、第644回定期演奏会
ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰(演奏会形式)
指揮:ユベール・スダーン
マイケル・スパイアーズ:ファウスト
ミハイル・ペトレンコ:メフィストフェレス
ソフィー・コッシュ:マルグリート
北川辰彦:ブランデル
合唱:東響コーラス、東京少年少女合唱隊
この公演は東響の定期公演で通常なら国内オーケストラで分類する。しかし以前舞台つきで二期会の公演があった際には(2010/7/17)オペラに分類していたので整合性からオペラに仕分けした。まあ個人的なこだわりです。
さて、今日の公演は音楽的には大変立派なもので、二期会の公演に比べると格段に素晴らしい。演奏会形式だから音楽に集中できるというメリットを大きく生かした公演だった。正直二期会の公演はバレエの多用でこの「ファウストの劫罰」のオペラ的な面白さを描き切れていないと思ったのである。ベルリオーズが各場面の情景を細かく描写しているがそれをバレエで片付けようとしている安易さが物足りなかった。メトロポリタンの舞台の方が幾分ましだと思った(ライブビューイング)。しかし今夜のような素晴らしい音楽を聴かされるとベルリオーズの考えたような舞台はいかなるものなのか、一度それを聴いて/見てみたい思いに駆られる、まあそういう印象の好演だった。
歌手も合唱もオーケストラもとても充実していたが、なんと云ってもスダーンの統率が素晴らしい。この曲は聴きどころがいたるところにあるのだが、スダーンは壺をはずさないのだ。いくつか例をあげると、第1部の冒頭、音楽が膨れてだんだん輝かしくなっているのを聴いているとベルリオーズを聴いているんだという実感を味わえるのだ。3場の有名なハンガリー行進曲は実に輝かしく、2部の6場アウエルバッハの酒場のばか騒ぎ、ばかばかしいようなアーメンのフーガも合唱とオーケストラの作る音楽に芯があり聴きごたえがある。蚤の歌の弦の軽妙な動き、7場の精霊の踊りの精妙さ、3部のメフィストフェレスの戯れ歌の美しくも奇怪な音楽、4部のマルグリートのロマンスに付けた木管の美しさ、18場のファウストの地獄落ちの凄まじさなど、いずれもライブならではの迫力と繊細さが両立した見事な音楽表現であったと思う。
歌手も充実していた。まずタイトルロールのスパイアーズの非常に伸びやかな声はホールの隅々まで浸透し実に聴きごたえのある歌唱である。老年のファウストと若くなったファウストとの違いはわからないがこれはもともとのベルリオーズの音楽のせいだろうと思う。ボイートの「メフィストフェレス」も同じような印象をテノールの歌唱から受けるがもしかしたらベルリオーズに影響を受けたのかもしれないと思わせるような類似性を感じた。
ついでコッシュのマルグリート。「トゥーレの王」の柔らかく包み込むような歌唱とロマンス「激しい炎のような愛は」の激しい情熱を込めた歌唱は対照的で、特に後者は感動的。ペトレンコのメフィストはとくに後半が素晴らしい。地獄落ちの場面のデモーニッシュな雰囲気やセレナーデの軽妙な奇怪さなど聴きどころは多かった。ブランデルも1曲だけだが邦人代表として大健闘だろう。ただ歌い手はオーケストラの後ろに陣取るので彼我の声の量感には差を感じた。
合唱は実に充実していた。150人(児童合唱は除く)は超えていたと思うが、サントリーのP席を埋め尽くして、力強い声を聴かせてくれた。2部のアーメンフーガ、3部のフィナーレの合唱、そして4部の地獄落ちとマルグリートの救済の場面などとても印象に残った。
演奏時間は130分。定期公演としては異例の長い演奏会だった。
〆
於:サントリーホール(1階11列右ブロック)
東京交響楽団、第644回定期演奏会
ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰(演奏会形式)
指揮:ユベール・スダーン
マイケル・スパイアーズ:ファウスト
ミハイル・ペトレンコ:メフィストフェレス
ソフィー・コッシュ:マルグリート
北川辰彦:ブランデル
合唱:東響コーラス、東京少年少女合唱隊
この公演は東響の定期公演で通常なら国内オーケストラで分類する。しかし以前舞台つきで二期会の公演があった際には(2010/7/17)オペラに分類していたので整合性からオペラに仕分けした。まあ個人的なこだわりです。
さて、今日の公演は音楽的には大変立派なもので、二期会の公演に比べると格段に素晴らしい。演奏会形式だから音楽に集中できるというメリットを大きく生かした公演だった。正直二期会の公演はバレエの多用でこの「ファウストの劫罰」のオペラ的な面白さを描き切れていないと思ったのである。ベルリオーズが各場面の情景を細かく描写しているがそれをバレエで片付けようとしている安易さが物足りなかった。メトロポリタンの舞台の方が幾分ましだと思った(ライブビューイング)。しかし今夜のような素晴らしい音楽を聴かされるとベルリオーズの考えたような舞台はいかなるものなのか、一度それを聴いて/見てみたい思いに駆られる、まあそういう印象の好演だった。
歌手も合唱もオーケストラもとても充実していたが、なんと云ってもスダーンの統率が素晴らしい。この曲は聴きどころがいたるところにあるのだが、スダーンは壺をはずさないのだ。いくつか例をあげると、第1部の冒頭、音楽が膨れてだんだん輝かしくなっているのを聴いているとベルリオーズを聴いているんだという実感を味わえるのだ。3場の有名なハンガリー行進曲は実に輝かしく、2部の6場アウエルバッハの酒場のばか騒ぎ、ばかばかしいようなアーメンのフーガも合唱とオーケストラの作る音楽に芯があり聴きごたえがある。蚤の歌の弦の軽妙な動き、7場の精霊の踊りの精妙さ、3部のメフィストフェレスの戯れ歌の美しくも奇怪な音楽、4部のマルグリートのロマンスに付けた木管の美しさ、18場のファウストの地獄落ちの凄まじさなど、いずれもライブならではの迫力と繊細さが両立した見事な音楽表現であったと思う。
歌手も充実していた。まずタイトルロールのスパイアーズの非常に伸びやかな声はホールの隅々まで浸透し実に聴きごたえのある歌唱である。老年のファウストと若くなったファウストとの違いはわからないがこれはもともとのベルリオーズの音楽のせいだろうと思う。ボイートの「メフィストフェレス」も同じような印象をテノールの歌唱から受けるがもしかしたらベルリオーズに影響を受けたのかもしれないと思わせるような類似性を感じた。
ついでコッシュのマルグリート。「トゥーレの王」の柔らかく包み込むような歌唱とロマンス「激しい炎のような愛は」の激しい情熱を込めた歌唱は対照的で、特に後者は感動的。ペトレンコのメフィストはとくに後半が素晴らしい。地獄落ちの場面のデモーニッシュな雰囲気やセレナーデの軽妙な奇怪さなど聴きどころは多かった。ブランデルも1曲だけだが邦人代表として大健闘だろう。ただ歌い手はオーケストラの後ろに陣取るので彼我の声の量感には差を感じた。
合唱は実に充実していた。150人(児童合唱は除く)は超えていたと思うが、サントリーのP席を埋め尽くして、力強い声を聴かせてくれた。2部のアーメンフーガ、3部のフィナーレの合唱、そして4部の地獄落ちとマルグリートの救済の場面などとても印象に残った。
演奏時間は130分。定期公演としては異例の長い演奏会だった。
〆