2016年1月31日
於:東京文化会館(1階15列左ブロック)
藤原歌劇団公演
プッチーニ「トスカ」
指揮:柴田真郁
演出:馬場紀雄
トスカ:佐藤康子
カヴァラドッシ:笛田博昭
スカルピア:須田慎吾
アンジェロッティ:久保田真澄
堂守:安東玄人
スポレッタ:沢崎一了
シャルローネ:田中大揮
看守:坂本伸司
牧童:時田早弥香
合唱:藤原歌劇団合唱部、多摩ファミリーシンガーズ
管弦楽:東京フィルハーモニー管弦楽団
藤原歌劇団に気合いを感じる素晴らしい公演だった。トスカは新国立で聴いたばかりだったのでつい比べたくなってしまう。会場の違いもあり、装置は新国立の豪華・華麗さにはかなわない。しかし歌手たちは新国立の海外組に決して勝るとも劣らない。なるほど新国立の歌手たちの声の威力は素晴らしいものであったが、なにか主役の三人がばらばらと勝手に歌っているようで、声の饗宴がドラマに結びつかないように思った。
しかし今日の公演は三人の歌手たちの声がドラマにつながり、誠に見ごたえ、聴きごたえのあるものであった。
トスカの佐藤は幾分小作りなトスカだが、その柔らかくのびやかな声は、歌姫に相応しい。「歌に生き、恋に生き~」も超ド級の声ではなく、可愛らしく聴こえ、悲劇性が増す。こう云うトスカもありかと思った。全域にわたって安定している声は安心して聴いていられるのがなによりである。
笛田のカヴァラドッシも素晴らしい。彼は2014年に藤原歌劇での蝶々さんの公演で
ピンカートンを歌っていたが、あれも素晴らしい歌唱で、凄い若手がでてきたものだと思っていた。今日の公演でも彼の力強く輝かしい声はまことに存在感のあるものである。1幕の「妙なる調和」、その後のトスカとの二重唱も聴きごたえがあった。2幕のスカルピアとのやりとりは決して腰砕けにならないし、3幕の「星はきらめき~」など全て余裕のある歌いっぷり。
須藤のスカルピアは幾分明るい声で凄みには少々欠けるが、スカルピアの屈折した、異常な性格を表現する歌唱力は見事なものだ。もう少し低音に深みがあれば更によかったろう。
この三人の歌唱もさることながら、演技もよかった。日本人が西洋人を演じる時の気恥ずかしさがこの三人からは全く感じられないのは驚きである。やはり海外での場数を踏んでるせいだろうか?1幕のスカルピアとトスカの絡み、2幕の三人の絡み、などいずれも劇的効果が大きいのは決して歌からばかりではないだろう。
その他脇役陣も皆安定しているが、堂守の久保田はどうもいけない。くちがぱくぱくして声がでていないように思う。演技もちょっと恥ずかしい。彼は「ランスへの旅」でブロフォンドを歌っていたがそれもちょっと声が物足りなかった。
指揮の柴田も若い人の様だ。このプッチーニのドラマの音化に貢献していた。1幕の終わりのエネルギッシュな音楽の運び、2幕の劇的な表現、3幕の幕開けの情景描写の美しさとてもよかった。演出も若い人の様だ。基本的にはト書きを尊重しているようで安心して音楽にひたれた。舞台装置は少々変わっていて彼の演出ノートによると舞台を「劇場」に設定している。舞台中央に低い傾斜した楕円形の舞台があり、そこで例えば「歌に生き、恋に生き~」などが歌われる。左右には階段状の観客席があり、歌い手は観客に囲まれて歌う様なしかけだ。ただ実際はこの観客席はあまり機能していないような印象だった。この演出家による演出ノートはなかなか面白く、新演出の場合はこういうノートは披露してもらいたいものだ。プッチーニの歌詞へのこだわり、例えばトスカの最後の歌詞の「神のみ前で」の意味など論じられており面白かった。二期会もそうだが藤原のプログラムはとても良くできている。新国立や海外公演のプログラムも見習ってほしいものだ。
いずれにしろ今日は日本人だけによる見事なトスカを聴かせてもらった。演奏時間は拍手込みで114分。藤原には熱烈なファンがいるようで、途中にタイミングを外したような拍手やブラヴォーがあったのはちょっと残念である。
〆
於:東京文化会館(1階15列左ブロック)
藤原歌劇団公演
プッチーニ「トスカ」
指揮:柴田真郁
演出:馬場紀雄
トスカ:佐藤康子
カヴァラドッシ:笛田博昭
スカルピア:須田慎吾
アンジェロッティ:久保田真澄
堂守:安東玄人
スポレッタ:沢崎一了
シャルローネ:田中大揮
看守:坂本伸司
牧童:時田早弥香
合唱:藤原歌劇団合唱部、多摩ファミリーシンガーズ
管弦楽:東京フィルハーモニー管弦楽団
藤原歌劇団に気合いを感じる素晴らしい公演だった。トスカは新国立で聴いたばかりだったのでつい比べたくなってしまう。会場の違いもあり、装置は新国立の豪華・華麗さにはかなわない。しかし歌手たちは新国立の海外組に決して勝るとも劣らない。なるほど新国立の歌手たちの声の威力は素晴らしいものであったが、なにか主役の三人がばらばらと勝手に歌っているようで、声の饗宴がドラマに結びつかないように思った。
しかし今日の公演は三人の歌手たちの声がドラマにつながり、誠に見ごたえ、聴きごたえのあるものであった。
トスカの佐藤は幾分小作りなトスカだが、その柔らかくのびやかな声は、歌姫に相応しい。「歌に生き、恋に生き~」も超ド級の声ではなく、可愛らしく聴こえ、悲劇性が増す。こう云うトスカもありかと思った。全域にわたって安定している声は安心して聴いていられるのがなによりである。
笛田のカヴァラドッシも素晴らしい。彼は2014年に藤原歌劇での蝶々さんの公演で
ピンカートンを歌っていたが、あれも素晴らしい歌唱で、凄い若手がでてきたものだと思っていた。今日の公演でも彼の力強く輝かしい声はまことに存在感のあるものである。1幕の「妙なる調和」、その後のトスカとの二重唱も聴きごたえがあった。2幕のスカルピアとのやりとりは決して腰砕けにならないし、3幕の「星はきらめき~」など全て余裕のある歌いっぷり。
須藤のスカルピアは幾分明るい声で凄みには少々欠けるが、スカルピアの屈折した、異常な性格を表現する歌唱力は見事なものだ。もう少し低音に深みがあれば更によかったろう。
この三人の歌唱もさることながら、演技もよかった。日本人が西洋人を演じる時の気恥ずかしさがこの三人からは全く感じられないのは驚きである。やはり海外での場数を踏んでるせいだろうか?1幕のスカルピアとトスカの絡み、2幕の三人の絡み、などいずれも劇的効果が大きいのは決して歌からばかりではないだろう。
その他脇役陣も皆安定しているが、堂守の久保田はどうもいけない。くちがぱくぱくして声がでていないように思う。演技もちょっと恥ずかしい。彼は「ランスへの旅」でブロフォンドを歌っていたがそれもちょっと声が物足りなかった。
指揮の柴田も若い人の様だ。このプッチーニのドラマの音化に貢献していた。1幕の終わりのエネルギッシュな音楽の運び、2幕の劇的な表現、3幕の幕開けの情景描写の美しさとてもよかった。演出も若い人の様だ。基本的にはト書きを尊重しているようで安心して音楽にひたれた。舞台装置は少々変わっていて彼の演出ノートによると舞台を「劇場」に設定している。舞台中央に低い傾斜した楕円形の舞台があり、そこで例えば「歌に生き、恋に生き~」などが歌われる。左右には階段状の観客席があり、歌い手は観客に囲まれて歌う様なしかけだ。ただ実際はこの観客席はあまり機能していないような印象だった。この演出家による演出ノートはなかなか面白く、新演出の場合はこういうノートは披露してもらいたいものだ。プッチーニの歌詞へのこだわり、例えばトスカの最後の歌詞の「神のみ前で」の意味など論じられており面白かった。二期会もそうだが藤原のプログラムはとても良くできている。新国立や海外公演のプログラムも見習ってほしいものだ。
いずれにしろ今日は日本人だけによる見事なトスカを聴かせてもらった。演奏時間は拍手込みで114分。藤原には熱烈なファンがいるようで、途中にタイミングを外したような拍手やブラヴォーがあったのはちょっと残念である。
〆