2013年7月14日
於:新国立劇場中劇場
平成25年度新国立劇場地域招聘オペラ公演
びわ湖ホール:クルト・ワイル「三文オペラ」
指揮:薗田隆一郎
演出:栗山昌良
メッキー・メッサー:迎 肇聡
ピーチャム:松森 治
ピーチャム夫人:田中千佳子
ポリー:栗原未和
ブラウン:竹内直紀
ルーシー:本間華奈子
ジェニー:中嶋康子
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
(ピッコロ、フルート、クラリネット、サキソホーン各種、ファゴット、トランペット、トロンボーン、パーカッション、バンジョー、シターラ、ハワイアン、バンドネオン、チェレスタ、オルガン、チェロ、コントラバス)
ピアノ:寺嶋隆也
三文オペラを最初に聴いたのは1931年の同名映画である。ただこれはオペラというより映画で、音楽はかなりカットしてあって、正直がっかりした。ただジェニーをワイル夫人のロッテ・レーニャが歌っていることがポイント。レーニャは007ロシアより愛をこめてでスペクターの幹部のクレブ大佐を演じているあの俳優だ。31年ころはかなり魅力的。
その次に聴いたのはデッカの録音。これは実に素晴らしく、まず歌手、ルネ・コロ(マクヒィス)、ポリー(ウテ・レンパー)、ジェニー(ミルヴァ)、ピーチャム夫人(ヘルガ・デルネシュ)、大道芸人(ロルフ・ボイセン)など。オーケストラは今日聴いたものとほぼ同じ構成。違いはオルガンの代わりにハルモニウムが使われていること。このCDを聴いているともうこれ以上考えられないくらい素晴らしい、特に女声陣はすごいとしかいいようがない。このハイブリッドな歌手陣はこのオペラの性格にぴったりだ。バラードオペラのスタイルだが、その当時のダンスバンドやキャバレーの音楽の響きが与えられているし、フォックストロットやタンゴのリズムも多用されているからだ。逆に今日の様な教科書に書いたような、いい方は変だがオペラの様な歌い方だと、少し上品すぎてワイルの音楽が薄まってしまうような気がする。味が薄いのである。この曲が書かれた1928年は大恐慌前夜で2つの大戦の谷間の不安定な時代であって、その雰囲気がでない。今日聴いていて最後までその思いが消えなくて違和感が残った。例えば海賊ジェニーなどレンパーの歌は身震いするくらい魅力的、デルネシュの性欲のバラードの面白みなどなどデッカのCDで聴いた方がずっと雰囲気が出ている。ただ管弦楽の響きはムード一杯でとても素晴らしかった。これが今日一番の聴きものだろう。この響きがワイルの世界なのだろうか?
演奏時間は164分。デッカのCDはほとんど音楽でブレヒトの戯曲部分は口上役に代弁させているので71分。164分から約70分を除いた芝居の部分が実は今日もっとも退屈したところ。演じた人たちの演技の問題もあろうが、演出、日本語訳(日本語上演)の問題もあろう。もう少し切り詰めて音楽をもっと集中して楽しみたかった。下手な芝居が長く、音楽の部分が短いのが最大の不満。
もうひとつ、今回は日本語上演だった。しかし字幕付きだ。どうせ字幕にするのなら原語上演にして欲しかった。やきもち焼きの2重唱のような単純な歌詞の場合は日本語訳は音楽にあっているが、大半の曲が音楽と言葉とがフィットしているとは思えなかった。 例えば歌は原語で、芝居の部分は日本語のハイブリッド上演という選択肢はなかったのだろうか?
3幕のフィナーレの後、全員で匕首マックを歌う、これがびわ湖ホールの宣伝というのはいかがなものか?そして最後に大道芸人による匕首マックが歌われて幕になる。この最後の部分が最も生き生きしていたのが皮肉である。〆