2012年5月29日
於:サントリーホール(1階5列中央ブロック)
ハンブルグ北ドイツ放送交響楽団、来日公演
指揮:トーマス・ヘンゲルブロック
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ
モーツァルト:オペラ「フィガロの結婚」序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
ブラームス:交響曲第一番
今年期待の外来オーケストラの第一弾である。北ドイツ放響は私にとってはギュンター・ヴァントとイコールの存在で、彼らの組み合わせのCDや映像でブルックナーを再発見したといっても過言ではない。今夜のプログラムのブラームスもこのコンビの全集を持っていてよく聴いているくらい。だからもっぱらCDだけれども北ドイツの音は耳に馴染んでいるはず。従って今夜、このヘンゲルブロックという新しい首席指揮者がどういう演奏をするか、どういう音を出すかはものすごく楽しみだった。この指揮者は古楽の出身であり、それがこてこての(?)伝統型のオーケストラをどうさばくかということは大変興味深いことではないだろうか?このように古楽の出身者がモダンオーケストラのリーダーになるのはもう決して驚くべきことではないのだろう。例えばノリントン/シュトゥットガルトのコンビもそうだ。アーノンクールがウィーンフィルを振ったって全く違和感がないのだ。
さて、今夜の演奏はどうか?一言で言えばハイブリッド型の演奏だと思う。つまり古楽とモダンがミックスされた演奏だ。ラトル/ウィーンフィル、パーヴォ・ヤルヴィ、ノリントン/シュトゥットガルト、がベートーベンでとっているスタイルだと思う。そしてちょっと違うかもしれないがシャイー/ライプチッヒなどもアプローチは一緒だと思う。全体に演奏は細身で軽快、スピード感が重厚さに勝っているというのが共通ではないだろうか?
今夜のブラームスもその一つの典型かもしれない。全体にテンポが速い。特に1、2楽章がそうだ。緩急つけもかなり大きい。速いところは獲物を追いかける猟犬のごとく音がすっ飛んでくる。たとえば緩やかに始まる3楽章が突如スケルツォのごとく音楽が駆け出す。決して嫌なスタイルではないが、面食らう人もおられるのではないだろうか?4楽章の序奏はものすごく遅い、しかし第1主題がひとしきり奏され、落ち着いたところで、音楽は急加速する。このギアチェンジはヴァント盤でも同じではあるが、ヘンゲルブロックは更に過激である。4楽章のコーダの加速もすさまじい。これは誠に刺激的なブラームスであった。
しかし、古楽で云われるような薄味感は全く感じられないところが、今夜の演奏の独自性だろう。決して低弦は重厚ではないが、軽くもない、高弦はヴィブラートはかけていたようだが、そのせいか細身ではなく力強い。そして圧巻は金管だろう。4楽章の序奏のホルンの分厚い音はドイツのオーケストラの音だろう。これはなかなか日本のオーケストラには出せない音ではないだろうか?もうひとつティンパニの分厚い響きも音楽をしっかりした支えをしていた。これも日本のオーケストラにないものだと思う。大体日本の指揮者はあまりティンパニを強調しないようにいつも思う。しかし海外のオーケストラではしっかりとした存在感をいつも示している。これは風土だろうか?今夜の公演は、面白い演奏というだけでなく実に素晴らしいドイツの音楽を聴いたという充実感が残る。
メンデルスゾーンもユニークな演奏。この誰でも知っている名曲をテツラフ/ヘンゲルブロックがどう料理するか興味深いところ。1楽章の冒頭、むせび泣くような主題をヴァイオリンが奏する。素晴らしい音色だ。しかし音楽は決して柔ではない。全曲を25分弱で突っ走る、その疾走感はこの曲の持っているイメージを払拭するものだろう。特に3楽章のスピードと躍動感は圧倒的で、聴いていて体が熱くなるほどだ。この演奏時間調べて見たらあの名演の誉れの高いハイフェッツ盤とほぼ同じだった。圧倒されるわけだ。しかし速さに負けずに、2楽章の柔らかい調べが、十分存在感があったことは、この演奏を味わい深くしている所以だろうと私は思う。
最初のフィガロは小手調べだが、これも疾走感が素晴らしい。しかし重心がしっかりしているから音楽が前のめり・軽薄にならないのだ。28日の公演ではこれがアンコールだったようだ。
今夜はテツラフがアンコールでバッハの無伴奏パルティータ三番からガヴォット、ヘンゲルブロックはドヴォルザークの「チェコ組曲からフィナーレ」を演奏。ドヴォルザークはオーケストラを聴く醍醐味満点の圧倒的な響き。決して満席とはいえない入りではあったが、聴衆を大いに湧かせた。
今夜は久しぶりに前から5列目で、どうなるかと思ったがそう違和感がなかった。全体に我が家の装置で音楽を聴いているように、音楽がストレートに耳に飛んでくる感じで、あるオーディオ評論家が5列目がベストシートだといわれていたのを思い出して、なるほどかと思った。ただ金管は頭の上を越してゆき、舞台天井の反射音が聞こえてくるような、微妙に遠い印象だった。むしろ前から15-17列くらいのほうが金管の直進性を感じられるかもしれない。なお、オーケストラの配置は1ヴァイオリンと2ヴァイオリンが対面して、その間にヴィオラとチェロが入り、コントラバスは右奥に配されている。指揮者は指揮台の上に立たず平場で指揮をしていた。
さて、ブラームスの一番は昔よく聴いて今はあまり聴かない1曲だろう。なぜか1楽章と4楽章のあの序奏が大げさなような気がして、ブラームスだとつい三番や四番を聴いてしまう。一番はカラヤン/ウィーン(1960年)とミュンシュ/パリ(1968年)の2枚が愛聴盤で最近はそれにヴァントが加わった。カラヤンとミュンシュは伝統型だが、両極とまではいかなくても、かなりスタイルが違う。すこぶる流麗なカラヤンと剛毅なミュンシュどちらも手放せない。特にミュンシュの4楽章は圧倒的で、これに勝る演奏は当分でてこないだろう。ただ録音はあまりいただけない。高弦が細身過ぎる。カラヤンのも少々古くなって(カルショー制作)、そろそろ録音的にだれか良い演奏を聞かせてくれないかと思っている。
メンデルスゾーンはハイフェッツが唯一無二の演奏でこれ以外はいらない。
〆
於:サントリーホール(1階5列中央ブロック)
ハンブルグ北ドイツ放送交響楽団、来日公演
指揮:トーマス・ヘンゲルブロック
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ
モーツァルト:オペラ「フィガロの結婚」序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
ブラームス:交響曲第一番
今年期待の外来オーケストラの第一弾である。北ドイツ放響は私にとってはギュンター・ヴァントとイコールの存在で、彼らの組み合わせのCDや映像でブルックナーを再発見したといっても過言ではない。今夜のプログラムのブラームスもこのコンビの全集を持っていてよく聴いているくらい。だからもっぱらCDだけれども北ドイツの音は耳に馴染んでいるはず。従って今夜、このヘンゲルブロックという新しい首席指揮者がどういう演奏をするか、どういう音を出すかはものすごく楽しみだった。この指揮者は古楽の出身であり、それがこてこての(?)伝統型のオーケストラをどうさばくかということは大変興味深いことではないだろうか?このように古楽の出身者がモダンオーケストラのリーダーになるのはもう決して驚くべきことではないのだろう。例えばノリントン/シュトゥットガルトのコンビもそうだ。アーノンクールがウィーンフィルを振ったって全く違和感がないのだ。
さて、今夜の演奏はどうか?一言で言えばハイブリッド型の演奏だと思う。つまり古楽とモダンがミックスされた演奏だ。ラトル/ウィーンフィル、パーヴォ・ヤルヴィ、ノリントン/シュトゥットガルト、がベートーベンでとっているスタイルだと思う。そしてちょっと違うかもしれないがシャイー/ライプチッヒなどもアプローチは一緒だと思う。全体に演奏は細身で軽快、スピード感が重厚さに勝っているというのが共通ではないだろうか?
今夜のブラームスもその一つの典型かもしれない。全体にテンポが速い。特に1、2楽章がそうだ。緩急つけもかなり大きい。速いところは獲物を追いかける猟犬のごとく音がすっ飛んでくる。たとえば緩やかに始まる3楽章が突如スケルツォのごとく音楽が駆け出す。決して嫌なスタイルではないが、面食らう人もおられるのではないだろうか?4楽章の序奏はものすごく遅い、しかし第1主題がひとしきり奏され、落ち着いたところで、音楽は急加速する。このギアチェンジはヴァント盤でも同じではあるが、ヘンゲルブロックは更に過激である。4楽章のコーダの加速もすさまじい。これは誠に刺激的なブラームスであった。
しかし、古楽で云われるような薄味感は全く感じられないところが、今夜の演奏の独自性だろう。決して低弦は重厚ではないが、軽くもない、高弦はヴィブラートはかけていたようだが、そのせいか細身ではなく力強い。そして圧巻は金管だろう。4楽章の序奏のホルンの分厚い音はドイツのオーケストラの音だろう。これはなかなか日本のオーケストラには出せない音ではないだろうか?もうひとつティンパニの分厚い響きも音楽をしっかりした支えをしていた。これも日本のオーケストラにないものだと思う。大体日本の指揮者はあまりティンパニを強調しないようにいつも思う。しかし海外のオーケストラではしっかりとした存在感をいつも示している。これは風土だろうか?今夜の公演は、面白い演奏というだけでなく実に素晴らしいドイツの音楽を聴いたという充実感が残る。
メンデルスゾーンもユニークな演奏。この誰でも知っている名曲をテツラフ/ヘンゲルブロックがどう料理するか興味深いところ。1楽章の冒頭、むせび泣くような主題をヴァイオリンが奏する。素晴らしい音色だ。しかし音楽は決して柔ではない。全曲を25分弱で突っ走る、その疾走感はこの曲の持っているイメージを払拭するものだろう。特に3楽章のスピードと躍動感は圧倒的で、聴いていて体が熱くなるほどだ。この演奏時間調べて見たらあの名演の誉れの高いハイフェッツ盤とほぼ同じだった。圧倒されるわけだ。しかし速さに負けずに、2楽章の柔らかい調べが、十分存在感があったことは、この演奏を味わい深くしている所以だろうと私は思う。
最初のフィガロは小手調べだが、これも疾走感が素晴らしい。しかし重心がしっかりしているから音楽が前のめり・軽薄にならないのだ。28日の公演ではこれがアンコールだったようだ。
今夜はテツラフがアンコールでバッハの無伴奏パルティータ三番からガヴォット、ヘンゲルブロックはドヴォルザークの「チェコ組曲からフィナーレ」を演奏。ドヴォルザークはオーケストラを聴く醍醐味満点の圧倒的な響き。決して満席とはいえない入りではあったが、聴衆を大いに湧かせた。
今夜は久しぶりに前から5列目で、どうなるかと思ったがそう違和感がなかった。全体に我が家の装置で音楽を聴いているように、音楽がストレートに耳に飛んでくる感じで、あるオーディオ評論家が5列目がベストシートだといわれていたのを思い出して、なるほどかと思った。ただ金管は頭の上を越してゆき、舞台天井の反射音が聞こえてくるような、微妙に遠い印象だった。むしろ前から15-17列くらいのほうが金管の直進性を感じられるかもしれない。なお、オーケストラの配置は1ヴァイオリンと2ヴァイオリンが対面して、その間にヴィオラとチェロが入り、コントラバスは右奥に配されている。指揮者は指揮台の上に立たず平場で指揮をしていた。
さて、ブラームスの一番は昔よく聴いて今はあまり聴かない1曲だろう。なぜか1楽章と4楽章のあの序奏が大げさなような気がして、ブラームスだとつい三番や四番を聴いてしまう。一番はカラヤン/ウィーン(1960年)とミュンシュ/パリ(1968年)の2枚が愛聴盤で最近はそれにヴァントが加わった。カラヤンとミュンシュは伝統型だが、両極とまではいかなくても、かなりスタイルが違う。すこぶる流麗なカラヤンと剛毅なミュンシュどちらも手放せない。特にミュンシュの4楽章は圧倒的で、これに勝る演奏は当分でてこないだろう。ただ録音はあまりいただけない。高弦が細身過ぎる。カラヤンのも少々古くなって(カルショー制作)、そろそろ録音的にだれか良い演奏を聞かせてくれないかと思っている。
メンデルスゾーンはハイフェッツが唯一無二の演奏でこれ以外はいらない。
〆