ぶんぶんのへそ曲がり音楽日記

オペラ、管弦楽中心のクラシック音楽の音楽会鑑賞記、少々のレビューが中心です。その他クラシック音楽のCD,DVD映像、テレビ映像などについても触れます。 長年の趣味のオーディオにも文中に触れることになります。その他映画や本についても感想記を掲載します。

2010年12月

2010年12月5日
於:サントリーホール(17列中央ブロック)

第584回東京交響楽団定期演奏会
指揮:大友直人
8重唱:東京混声合唱団

べリオ:シンフォニア
リヒャルト・シュトラウス:英雄の生涯

べリオはイタリアの作曲だそうだ。このシンフォニアは5楽章版での初演は1969年。8重唱はマイクを握って音楽ともつぶやきとも言えるような音を出している。歌詞は楽章ごとに違い多言語で歌われる。3楽章はマーラーの二番の3楽章をベースにしているというかほとんど真似。さらにラヴァルスとか田園その他いろいろな曲のフレーズが挿入される。正直言ってマーラーのこの曲の後半のトランペットが流れるとほっとする。2楽章はキング牧師を悼んだ歌のようだ。こういう音楽は私には辛い。眠気と戦った30分。この曲は現代の世相を表わしているらしいのだが、もしそうなら現代とは相当嫌な時代だ。
 来シーズンの東響のテーマはシェーンベルクなので相当勉強しなくてはいけないなと覚悟を決めた。

 英雄の生涯はうってかわってポピュラーな曲。精神性はかけらも感じられないがその音のゴージャスさ、楽しさは流石名曲と言われただけのことはあると改めて今日の演奏を聴いて感じた。
 プログラムの中のエッセイに「ニーチェの英雄主義にヒットラーの到来を感じたシュトラウスはわざとこういう家族的英雄:ベートーベンとは似ても似つかない、を音楽にしたのだ」といった趣旨のことが書いてあったが、そういうことか、だから英雄の伴侶がしつこいくらい長いのか、と合点がいった。
 大友の演奏はその英雄の伴侶を除けばきりりとしまった演奏でとても楽しんだ。特に当然のことながら英雄の姿や英雄の戦いの音楽の凄まじいこと、サントリーホールが鳴動せんばかりの音で充満し、オーケストラを聴く醍醐味を味わうことができた。今日も何人かのオチビさんがいたが彼らがこれを聴いて音楽を聴く楽しさを覚えてくれれば良いなあ思った。東響は前回のブルックナーに引き続いて好調。冒頭で10本のホルンが鳴るがその豪快な響きに、鳥肌が立つくらいすごみがあった。コントラバスの低音の支えもしっかりしていた。ただ最後のテンポが緩くなる場面では前半とばし過ぎたせいか、少々雑になったようだ。大友の指揮もかなり激しい身振りでオーケストラをドライブしていた。しかし英雄の伴侶は正直いって甘ったるく弛緩を感じた。
                                〆     

2010年12月2日
於:東京文化会館(23列中央ブロック)

ワルシャワ室内歌劇場日本公演
ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」
指揮:タデウス・ストゥルガラ
演奏:ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場管弦楽団
合唱:ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場合唱団

マックス:レシェック・シフィジンスキ
アガーテ:タチアナ・ヘンペル
カスパール:アンジェイ・クリムチャク
クーノー:スワヴォミル・ユルチャック
エンヒェン:マルタ・ボベルスカ
オットカール:ピョートル・ピーロン
隠者:ダリウシュ・グルスキ
キリアン:トマシュ・ラク
ザミエル:イェジ・マーレル

もっともドイツ的なオペラ作曲家といわれたカール・マリア・フォン・ウェーバーによる初めてのドイツ的オペラ「魔弾の射手」はあまり日本で演奏されないのはなぜだろう。序曲と狩人の合唱以外にも美しい曲、劇的な音楽が充溢しているのに。このワルシャワの室内歌劇場の演奏はそういう素晴らしさを決して十全に表わしたとはお世辞にも言えないが少なくともこの音楽の素晴らしさの片鱗は感じ取れたように思う。
 このオーケストラでこの器は少々気の毒だった様に思った。編成が少ないせいか音が薄くドイツの音になっていないように聴こえた。ドイツの鬱蒼とした森の中での物語、しかも悪魔に魂を売り渡すという恐ろしい話なのだから、もう少し重厚さがないと、音楽全体がペラペラに聴こえる。新国立の中劇場あたりで演奏すればまた違った印象になったかもしれない。
 歌手陣は正直言って何とか歌っているという感じ。その中で隠者役は声に深みがあって如何にもそれらしい雰囲気で、最後にこの舞台を締めた。もう一人エンヒェンは唯一この広い劇場に負けない伸び伸びとした声、歌い方は少々荒っぽいが、で会場を沸かせた。お客様も良く知っていてこの二人には盛大な拍手。あとは極端にいえばパラパラといった感じ。
 なかでもマックスの全く高音の伸びないくぐもった様な声は恥ずかしくなるほどだったし、アガーテは舞台姿は美しいが声は蚊の鳴くような声でちょっと残念だった。これで国立なのかしら?カスパールも全く声に凄みがなく悪魔に魂を売った男にしては歌い方が軽すぎる。魔弾を鋳るシーンなどは見せ場なのだが全く面白くなかった。このオペラ、カスパールが最も複雑な性格で人間らしいので好きな役回りだったのに残念。その他クーノーやオットカールも冴えない。
 合唱も編成が少ないためか可哀想なくらい元気がない。キエフオペラのボリスみたいで迫力ないこと極まりない。
 演出ではあまり見るべきものはなかった。大体セットらしきものはなく背景に移動パネルが何枚かあってそれが動くくらい。後はアガーテの部屋にはベッドや調度品がある程度で殺風景なもの。面白かったのはザミエルを舞台に登場させずに映像でみせたことと2幕のアガーテのシェーナとアリアで彼女が触ったものが皆宙に浮くという演出をしていたがもうこの時点でアガーテは神を味方にしていたことを暗示していたみたいで記憶に残る。しかしいくらこちょこちょと演出で小細工をしようと肝心な音楽がついて行かないのではそちらまで関心が回らない。
                                〆

2010年12月1日
於:紀尾井ホール(12列中央ブロック)

ジュリアーノ・カルミニョーラ
ヴェニス・バロック・オーケストラ来日公演
イタリア・バロック協奏曲集

アルビノーニ:弦楽と通奏低音のための4声の協奏曲作品7-1
ガルッピ:  同じく              ト短調
タルティーニ:同じく           ソナタ第3番
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲作品8-10(狩り)
       :ヴァイオリン協奏曲作品8-5(海の嵐)
       :ヴァイオリン協奏曲作品8-6(喜び)
       :ヴァイオリン協奏曲作品8-8
       :ヴァイオリン協奏曲作品8-11
アンコール
タルティーニ:ヴァイオリン協奏曲からラルゴ・アンダンテ
ヴィヴァルディ:四季{冬}から第2楽章
          (夏)から第1,3楽章

前半3つはカルミニョーラの独奏なしの合奏のみ。印象では昨年より音が艶やかで冴えていたように感じた。特にガルッピのグラーヴェ楽章はヴィオラスタートで意表を突かれた。とても美しく素敵な楽章。タルティーニのラルゲットもヴァイオリン2丁とヴィオラ、チェロ、ギターによる演奏でここも美しい。

 ヴィヴァルディになってカルミニョーラが入ってきた。とにかくその音の素晴らしさに快感を感じるほど。緩徐楽章は美しさの極み。アレグロ楽章は音楽がジェットコースターのように急降下と急上昇の連続で体ごと揺さぶられる感じだ。生理的な音楽快感で肌に粟を覚えるほどだった。これ以上もう何を望もう?
 狩りではホルンを模したヴァイオリン独奏の妙技。海の嵐はもちろんプレスト楽章は素晴らしいがラルゴがとりわけ美しい。ヴィヴァルディの緩徐楽章は嵌まるととてつもない素晴らしい音楽になる。例えばRV583のアンダンテなどこの世のものとは思えない。もちろんカルミニョーラの演奏だ。CDで聴ける。今夜も緩徐楽章に注目していたが海の嵐と作品8-8はとりわけ美しい。特に後者はその静謐さが他の曲にないユニークさだと思った。最後の8-11のラルゴはいかにもヴィヴァルディらしくカルミニョーラは甘く・せつなく演奏してこれも素晴らしかった。

アンコールのタルティーニは美しさの極み。四季からの3曲はもう言わずもがな。CDで聴くよりさらに起伏が激しく挑戦的。聴衆も大喜びだった。とにかく至福の90分だった。
                                〆

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