ぶんぶんのへそ曲がり音楽日記

オペラ、管弦楽中心のクラシック音楽の音楽会鑑賞記、少々のレビューが中心です。その他クラシック音楽のCD,DVD映像、テレビ映像などについても触れます。 長年の趣味のオーディオにも文中に触れることになります。その他映画や本についても感想記を掲載します。

2009年12月

2009年12月6日
於:サントリーホール(19列中央ブロック)

第573回東京交響楽団定期演奏会

ヤナーチェク:オペラ「ブロウチェク氏の旅行」

指揮:飯森範親
演出:マルティン・オタヴァ

ブロウチェク:ヤン・ヴァツィーク
マザル、青空の化身、ペツシーク:ヤロミール・ノヴォトニー(テノール)
マーリンカ、エーテル姫、クンカ:マリア・ハーン(ソプラノ)
堂守、月の化身、ドムシーク:ロマン・ヴォツェル(バリトン)
ヴュルフル、魔光大王、役人:ズデネェク・プレフ(バス)
詩人、雲の化身、スヴァトプルク・チェフ、ヴァチェク:イジー・クビーク(バリトン)
作曲家、竪琴弾き、金細工師ミロスラフ:高橋 淳(テノール)
画家、虹の化身、孔雀のヴォイタ:羽生晃生(テノール)
ボーイ、神童、大学生:鵜木絵里(ソプラノ)
ゲドルタ:押見朋子(アルト)

合唱:東響コーラス(指揮:大井剛)


このオペラはヤナーチェク60歳ころの作品。資料によると彼はメジャーになるまでは相当苦労したらしい。故郷のモラヴィアではそこそこ知られた音楽家だったがなんと「イェヌーファ」がプラハで初演されたのが彼が62歳の時だというんだから、その苦労は相当なものだったと思う。日本でも彼の作品が最近になってやっとプログラムにのってきたようだが、新国立では知っている限りではまだ彼のオペラは上演されていないと思う。

このブロウチェク氏の冒険も今夜が日本初演だそうだ。実はいつもは大体予習してくるのだがまさかこの曲のCDなぞありやしまいと思い込み、全く初めて聴くことになったしまった。ところが会場で先日の日本フィルでブルックナーの五番を振ったビェロフラーヴェクによるCDが販売されていたのだ。しまったと思ったが後の祭り。

この曲は1部、2部に分かれそれぞれが2幕で構成されている。1部がブロウチェク氏の月への旅、2部がブロウチェク氏の15世紀の旅というタイトルが付けられている。現在(1888年)、月、15世紀(フス戦争のころ)と三つの時間・場所で演じられ、しかも同じ歌手がそれぞれの場面では違う名前ででてくるため、あれは誰かこれは誰だと忙しいこと極まりない。特に1部はややこしい。と思ったらこの部分はなんと8人の台本作家によって作られているという。まあ話が複雑なわけだ。ということで予習をしなかった罰でどうも第1部は筋が飲み込めなくて往生して、結果的には音楽にあまり集中できなかった。正直いって全体に単調で、美しいアリアがあるわけでもなく、どうもモラヴィアのイントネーションで音楽が書かれているということなので、耳にすんなり入ってこないというのも一因だったかもしれない。

しかし後半になって慣れてきたせいか、ここは一人の台本作家によって書かれたからか、この第2部は大変楽しめた。音楽もブロウチェク氏がヤン・フス軍に参戦させられてしまう場面とかそのあとの戦いを思わせる音楽などオルガンも交えてなかなか聴かせた。

さて、歌手陣はほとんどがプラハ国立歌劇場の専属か、それに準ずる歌手(除く日本人)であり、また演出家もプラハの専属のような方でほとんど引越し公演のような様相。余談だが6年ほど前だと思うがたまたまプラハの国立歌劇場で「椿姫」を聴く機会を得た。この劇場はたしか「ドンジョバンニ」を初演した由緒ある劇場だが、思ったよりこじんまりして実に雰囲気が良かった。音響も素晴らしく楽しんだことを覚えている。日本のように字幕が舞台の上方に出るがチェコ語だったのがおかしかった。ということでこの劇場はかなり水準が高い。

1部は上記の事情なので歌を楽しむところまではいかなかったが、2部では各歌手の熱演を楽しむことができた。特に印象に残ったのはブロウチェク氏を演じたヴァツィークで達者な演技と余裕のある声でよかった。女性陣ではマリア・ハーンが実に美しい声でいろいろな役を歌い分けていたのに感心させられた、と同時に声の素晴らしさを堪能した。日本人ではテノールの高橋がよかった。

飯森指揮の東響の演奏は満足行くもので弦は相変わらずしなやかで強奏になっても決してヒステリックにならない。金管も同様。飯森/東響は川崎ミューザでマーラーの八番を聴いてえらく感心したが、今夜の難しいオペラの初演、十分楽しめる出来栄えだったのでなかろうか?

なお、舞台はなくセミステージ形式。オーケストラの後方に舞台を置き背景は白い幕。装置は箱が数個のみ。ただオルガンの位置にスクリーンを張ってそこに字幕とイメージ映像を映し出すという寸法。例えば月の場面だとお月様の写真を映し出す。まああまり役に立たないが言わんとすることはわかる。このオペラはしっかりした舞台で装置もそれなりに用意したら面白いオペラになるのではない化と思われた。合唱はP席に陣取った。これも熱演。
                                          終わり

2009年12月5日
於:NHKホール(18列中央ブロック)

第161回NHK交響楽団定期公演(Aプロ)

ストラヴィンスキー:バレー音楽「アゴン」
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第二番
シュトラウス:交響詩「ドンキホーテ」

指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:キリル・ゲルシュタイン
チェロ:ゴーティエ・カプソン
ヴィオラ:店村眞積


デュトワのプログラムは何かみそがあるのだが、今回はSのつく作曲家を集めたようだ。まあ意識したかどうかはわからない。

ストラヴィンスキーのアゴンはフランスの舞踊曲をモデルにした12のダンスからなっているそうで1957年に初演、作曲は2回に分けられてされたようで前半と後半とでは曲想が異なる。正直いってあまりおもしろくない。N響の個々のプレーヤーの名技を楽しんだ。ストラヴィンスキーは最初の三つのバレー音楽以外は全く魅力を感じない。前回もデュトワはエディプス王を取り上げたがあまり面白くなかった。自分の好みに合わないのかも。

二曲目のショスタコーヴィチはそれに反して大いに楽しんだ。ピアニストである息子のマキシムに献呈されたそうな。20分たらずの短い曲だ。1楽章では第2主題以降のピアノの猛スピードの強烈な連打は生理的な快感を感じたくらい面白かった。ゲルシュタインというピアニストは初めてだがものすごいテクニックを持っているようだ。ロシア出身でいろいろなコンクールでも優勝したりしているようだ。思わず1楽章の後拍手がでたくらい痛快だった。
 2楽章ははうって変わって映画音楽のような美しい音楽、特にピアノによって演奏される第2主題は印象的な音楽。このピアノも硬質で実に美しい。
 3楽章は又アレグロに戻ってここも耳当たりの良い音楽が続く。ロシアの民謡を彷彿とさせる音楽。N響の演奏も緩急スムーズでピアノの名技と相まって非常に楽しい音楽だった。ショスタコーヴィチは今まであまり聴かなかったが最近良く耳にするようになった。新国立の「ムチェンスクのマクベス夫人」が刺激になった。このオペラは実に陰惨なストーリーであり音楽もそれにふさわしいがたとえば「警官の歌}のようにユーモラスなところがありそこがショスタコの魅力かもしれない。今日のこの協奏曲もそういうところがあって面白かった。たとえば1楽章の1主題と2主題の対比や3楽章のピアノによる3番目の主題など。

最後はシュトラウスの「ドンキホーテ」。これが今夜の最大の聴きものだったかもしれない。この曲、プログラムをみるとシュトラウスが「英雄の生涯」と同じ時期に書いているそうだ。同じ時期に自分をモデルにしたような「英雄の生涯」とセルヴァンテスから触発された「ドンキホーテ」という二人の英雄を書きわけるなんてすごいやつだと思う。
 カプソンのチェロと店村のヴィオラの掛け合いがすこぶる面白く2人が何やらやり合っている姿が目に浮かぶよう。サンチョの自嘲するような節目の音楽が実にユーモラスで。オーケストラもすこぶる美しく感じた。特に変奏5の音楽はにおい立つようなシュトラウスの音楽を十分表わしていたように感じた。変奏7の盛り上がりもものすごく、でも金管も弦もうるさくならずオーケストラの音を堪能した。
 ただ前夜のブルックナーの五番の四楽章を聴いた後の気分の高揚感はなくそこがシュトラウスの交響詩の物足りなさだと自分は感じている。シュトラウスはオペラのほうが自分にとってはずっと心が動くように思う。先日聴いた二期会のカプリッチョやその他薔薇の騎士、影のない女、サロメどれも素晴らしいと思う。まあこれは余談。
                               以上

2009年12月4日
於:サントリーホール(19列中央ブロック)

第616回日本フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会

ブルックナー:交響曲第五番

指揮:イルジー・ビェロフラーヴェク

今夜はつくづくブルックナーの曲は難しいと思った。1楽章から4楽章まで演奏する側と聴き手が継続して緊張感(ちょっと正しくないが他の言葉が思い浮かばない)を保つことの難しさである。今夜の演奏は結局最後はよかったのだが途中紆余曲折があったのだ。

このややこしい名前の指揮者はチェコ出身でBBCの首席指揮者を務めている実力者である。レコーディングもいろいろとやっているようだ。

まず1楽章の導入からとにかく全休止の間が異様に長いので面喰った。なかなか提示部に入らない。ちょっといらいらしてくる。この楽章の演奏時間はやく22分だから他の演奏に比べると長いほうだ。とは言ってもヴァント並みだからそんなに長いということはない。でもものすごく長く感じた。オーケストラもついていけたのかどうか?それもあってかなかなか集中してこないというか音楽がフォーカスしてこない(これもうまい言葉がないんです。要するに良い演奏は音楽が見えてくるような気がするんです)のである。一つの責任はオーケストラにある。あの前回のジークハルトのベートーベンの音はどこへいったのだろう。あの夜は確かに日本フィルはドイツの音だったと思う。しかし今夜はまたいつもの腰高な音である。どうしても自分の耳には低弦が弱く聞こえるのだ。分厚い低弦があってこそ金管の音が落ち着いて聞こえるのに分厚くないもんだから金管がむき出しになりうるさいこと極まりない。ヴァイオリンも少々落ち着きがなく感じた。ということで1楽章は終わってしまった。ただ大好きな展開部の導入のところ、フルートとヴァイオリンが印象的な掛け合いをするがここは実に感動的。胸にしみる音楽だった。

2楽章は断然よかった。テンポは少し早目、でもほぼヴァント並み。ここは音楽が流れていた。緩徐楽章だと低弦の弱いのが気にならない。特に展開部以降は実に感動的な名演ではないかと感じた。

3楽章は少々落ち着かない。トリオのところもなぜか眠くなった。聴き手も70分以上緊張を保つことは難しいのだと感じた。しかしインバル/都響の演奏ではそういうことはなかったんだが?まあ体調やら、なんやらいろいろな変数がないまぜになって出てくるのではないかと思う。

4楽章も出だしは1楽章と同じで全休止が長くてこのまま止まってしまうかと思って心配したが、実はこの楽章が最もオーケストラが良かった。ここも展開部以降、終結部まで息も尽かさぬ熱演であった。管も強奏になっても嫌な音にならなくて豪快なサウンドを楽しめた。最後の盛り上がりも手に汗を握るほど。ただ低弦はもう少しずっしりした音を出して欲しいと思った。ティンパニはここまであまり元気がなかったがこの楽章ではまずまず。もっとたたいてもいいくらい。チェコやゲヴァントハウスのティンパニはなんであんなに豪快なのだろう?ということでばらつきはあったが最後がよかったので満ち足りた気持ちで帰宅した。

今夜の演奏時間は74分であった。ヴァントのCDが76分、ティーレマンが82分である。この2枚のCDを聴き比べて見た。初めてティーレマンの演奏を聴いたときなんとスケールがでかいのだろうと思ったが何回も聴き返すとやはり82分は少々ながいのではないかと感じるようになった。とくに2楽章は20分もかけているので少々冗長に感じる部分もある。ヴァントは約16分。何度も繰り返して聴くならヴァントのほうが聴きやすい。ティーレマンのは再生芸術ではなくライブでの一発勝負ではないか?東京でこの曲をやった時は本当にスケールがでかくたまげた。サントリーホールの天井が抜けるかと思ったくらい。ただヴァントもライブ録音なのに面白いですね。この違いが!ただこれは自分の感じた印象だから人によってはヴァントが物足りんという方もいるかもしれない。まあこれは余談。
                             終わり

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