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2022年9月24日(於:紀尾井ホール)
紀尾井ホール室内管弦楽団、第132回定期演奏会
トレヴァー・ピノック第三代首席指揮者 就任記念コンサート

指揮:トレヴァー・ピノック
ピアノ:アレクサンドラ・ドヴガン

ワーグナー:ジークフリート牧歌
ショパン:ピアノ協奏曲第二番

シューベルト:交響曲第五番

  台風15号上陸の中、どうしようかと迷ったが聴きに行くことにした。会場は台風にもめげず、かなりな入りで少し驚いた。
  紀尾井のオーケストラの定期の聴き手も案外と高齢化が進んでいて、こういう天候ではガラガラかと思ったが、あにはからんやである。もう一つ他のオーケストラの定期と違うのはご婦人の比率が印象では高いこと。理由はよくわからない。

  さて、本日の公演は古楽派の大御所、トレヴァー・ピノックの首席指揮者の就任記念コンサート。

  イギリスと云うのは面白い国で、クラシック音楽の世界では、中核の時代の古典派、ロマン派、後期ロマン派で、音楽史上特筆すべき人はいないし、オペラもワーグナーやヴェルディに匹敵する人は皆無だ。
  しかし、音楽の再生芸術家としては偉大な指揮者を何人も輩出している。特にそれはピリオド楽器による同時代音楽の再生と云う世界でである。ロジャー・ノリントンやエリオット・ガーディナーがその代表で彼らの事業は音楽再生の世界では革命的といえよう。トレヴァー・ピノックもその一人であるが、私の知る限りではピノックはノリントンのように手を広げすぎていない点が異なるように思う。
  彼を初めて知ったのはチェンバロ奏者としてで、そのCDは何度も何度も聴いた。その後印象に残ったのは、モーツアルトの交響曲全曲演奏である。反復を完全に行っているので、演奏時間が長かったり、通奏低音が活躍したり、面白い演奏で、私はベームのCDについでよく聴く。

  そういうことで彼が首席指揮者につくのは紀尾井にとってもインパクトのあることだろう。ただ本日の就任記念コンサートのプログラムはいかがなものか?ワーグナー、ショパン、シューベルトではまるでごった煮ではあるまいか?レパートリーの広さを示したいということだろうか?少なくともモーツァルトかハイドンは入れて欲しかった。

  ジークフリート牧歌は実に気持ちの良い演奏で、いこごちが良い。つい眠りに誘われて、気が付いていたら終わりに近かった。
  ショパンの二番のピアノはまだ15歳の少女の演奏。ロシア出身でもう世界的に活躍しているそうだ。いまはスペインに住んでいるということは亡命でもしたのだろうか?
  ただこのショパンの協奏曲は大の苦手曲で、3楽章のホルンの後の休止、そして終結と云うところになると少々気恥ずかしくなってまともに聴く気にならない曲だ。ただ2楽章の冒頭の主題の何とも魅力的なこと、ショパンの天才を感じるし、ドヴガンのセンスも感じる。アンコールはバッハ、前奏曲第十番、ロ短調

  さて、今日のお目当てはシューベルトである。この五番と云う曲はシューベルトの初期の交響曲の中でももっとも魅力的なもので、日ごろはブロムシュテット、ベームの演奏が愛聴盤。特にブロムシュテットは東ドイツ時代、シャルプラッテンで録音したCDは演奏も録音もおそらく彼の最高傑作だと思う。最近のベートーヴェンの演奏のようにせかせかするところはなく、すべてにわたって包容力のあるゆったりとした演奏で、この曲の魅力をたっぷり味わえる。
  ピノックはそういうスタイルとは異なり、きりりとした印象だ。それはモダン楽器ながら弦のビブラートは最小限にしていたり、ピリオド奏法をとりいれてるからかもしれない。特に両端楽章の推進力は、若きシューベルトを彷彿とさせるし、2楽章の美しい旋律は、響きの薄さを、清潔感に転じて、実に気持ちよく聴こえる。これは一つの典型のシューベルトと云って良いだろう。私は好きだ。
  雷雲が近づいているということで、終演後ただちに退席したのでアンコールは聴きそこないました。シューベルト、ロザムンデより間奏曲第三番(紀尾井のホームページより)