2019年7月27日
サリエル

「サリエルの命題」、楡 周平著、講談社
サリエルとは12天使の一人で癒すものとして認知されているが、一方では死をつかさどる天使ともされている。現代人の体を守る医療やその制度はもろ刃の剣だということを言っておられるのだろうかと思われるが、大げさなタイトルの割には面白い本ではない。
 それはサスペンス性がほとんどないかあっても底が浅い。本書の80%は健康保険制度の問題、少子化の問題、移民の問題、希少な医薬品の配分の問題など政治的な課題などについての政治家同士の対話がほとんどである。まるでどこぞの政党のマニフェスト作りに参加しているような気分である。まさか参議院選挙に合わせて発売した意図がそこにあるとは思えないが!
 サスペンス性の乏しさはパンデミックのプロセスが限定的であり、全体にのんびり議論を繰り返しているだけだから、緊迫感が伝わらないというところにあるのではないか?小説と云うのは本書のようなメッセージを込めるということも重要だが、やはりエンターテインメント性がないと物足りない。期待外れの1作だった。なお、登場人物との対話が中心ならそのプロフィールを巻頭に載せておいてもらえればより親切だろう。