井上真央とエミリー・ブラントは何の連関もない。ただ昨日、一昨日と続けて見た映画の主人公たちと云う点が共通点の一つである。

 しかし、彼女たちが主演した映画にはもっと大きな共通点がある。それは男に頼らない「強い女」を描いているということ。もっと言えば戦う女だ。2人とも危急存亡の折に旦那がいないのだ。井上真央の場合は旦那は出稼ぎ、エミリーの場合は旦那は前作でエイリアンに殺されて亡くなっているのだ。では詳しく見ていこう。
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大正7年(1918年)、全国でコメ騒動が起こった。この作品は富山の米騒動を題材にしている。舞台は富山の漁村である。多くの村人は、亭主は猟師、女房は日雇いでコメ俵を問屋から積み出しの浜辺まで運ぶ重労働で生計を立てている。その当時成人男子は一日に米を一升、女子は8合食べたという。女房の日当がおよそ20銭でやっと一升の米が買えたという。それは大正7年の4月だった。しかし徐々にコメの値段はあがり、夏には倍になった。おおもとはシベリア出兵を見越して、問屋が売り渋ったことにあったらしい。

 主人公の山浦いと(井上真央)は他村から嫁いで漁師の女房になった。その当時珍しく文盲ではなく、賢い女性で、出身の村ではアイドルのような少女だったそうだ。しかしこの村に来てからは重労働の毎日、姑(夏木マリ)と3人の子供,漁師の亭主とカツカツの生活。夫は漁期が終わると、北海道へ出稼ぎに行ってしまい、半年は不在。そんな時に起きたコメの価格の暴騰。ただでさえもカツカツなのに、まさに危急存亡。
 この村の女のリーダーは室井滋演じるおばば、しかし彼女は米騒動を扇動した疑いで逮捕されてしまう。リーダーを失った女たち。家族を守るために立ち上がる。いとはおばばに代わってリーダーとして強い女を演じる。
 この米騒動は寺内内閣を打倒したくらい大きな社会現象となった。映画は現代の格差社会を当てはめるような描き方をしているが、その当時はそんな生半可な格差ではなかった。それゆえ反動が大きかったのだろう。
 この映画は富山の出身者で作られているそうだ。その他鈴木砂羽、左時江、志の輔など多数。井上の演じる「いと」は実在かどうかはわからないが、その村の一種の異分子だったが、それにもめげず、一目置かれる存在になった、その過程が面白い。精いっぱいの演技が好印象だ。

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エミリー・ブラントも負けていない。こっちは近未来だ。クワイエット・プレイスの続編、パート2である。地球はエイリアンに占領されて500日近くたっている。このエイリアンは音を出すものを襲う。したがって、クワイエット・プレイスなのだ。
 この映画ではDAY!から始まる。平和のアパラチア山系の農村地域が舞台だが、全地球的な惨事となった発端を描いている。1作ではそこのところを詳しく描いていないので、これでそもそもがよくわかるという作りだ。平和な地域にエイリアンたちが襲う、音を出すものはすべて食べつくされてしまう。

 エヴリン・アボット(エミリー・ブラント)は夫のリーと長女のリーガン、長男のマーカス、そして1作でもう一人生まれることになっている。エイリアンに見つからないように、ひっそりと暮らしていた。しかし夫は1作の最後でエイリアンに惨殺される。映画は「DAY1」を描いたあとエヴリン家族が脱出する場面になる。1作を見ている人は分かっているのだが、長女は耳が聞こえない、長男は少し精神的に弱いという設定。長女のおかげで家族は手話ができるということで生き延びてきたのだった。

 しかし家は破壊され、逃亡せざるを得ない。その逃避行のさなか、ある廃墟でかつてはアボット家の友人であったエメット(キリアン・マーフィ)と出会う。彼は家族を失い一人で防御基地を作り、閉鎖的になっている。アボット家の人々には出て行けという。
 長女のリーガンは1作でもあったように、補聴器を改作して、超音波を出す装置を父親と作ったがそれをもって戦おうとする。
 映画はここで2分されてしまう。一つはリーガンがその超音波を伝送発信する基地を見つけ、そこへひとりでめざしてしまう。エメットは仕方なくそれに同行してリーガンを守るという流れである。
 一方、エヴリンは負傷したマーカスと乳児を守るためにエイリアンたちと孤軍奮闘する。映画はこの2つの流れを同時進行的に描いて行く。好みとしてはこの分断作戦はいかがかと思うが(90分の作品ではちょっと無理ではないだろうか?)。それよりなにより、エミリー・ブラントの雄姿を沢山みたいというのが本音である。こういう強い女をやらせたら1級品の彼女である(私はボーダー・ラインが好きだ)。前作では堪能したが、2作ではそういう分断作戦という構成でエミリー・ブラントの存在が少々薄められてしまった。キリアン・マーフィをなぜ引っ張ってきたのか?疑問が残る。

 作品の中身の「集中度」と井上真央の眼のぎらぎらした必死の演技で、勝負は「大こめ騒動」の勝ちだ。