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重厚なミステリーである。ここで描かれる物語はそもそもどこが基点なのだろうか?その基点つまり時代と人物が細やかに絡まりあうさまは、手品みたいだが、読み終わると、大河小説を読んだように、一つの家族の、悲しみが深く感じられる。そういう意味での重厚感である。

 主人公は藤原幸人、妻と娘、父親の小料理屋を継いでいて、幸せな生活を送っていた。父親は新潟の小村の出身でそこでも小料理屋をやっていて、現在の地に移ってきたのだ。しかしある事件で幸人の妻がなくなることから、この一家の運命は大きく変わるのである。
 その事件から10数年後娘は大学生に成長、そんな幸人に脅迫電話がかかってくる。幸人は逃げるように、自らのルーツである、新潟県の羽田上村へ、娘の部活の写真にかこつけて、姉の亜沙美とともに旅に出ることになった。そこは幸人にとって重い村だった。31年前に起きた幸人の母親の死に、対峙しなくてはならないからだった。しかし姉の亜沙美も幸人も、もやもやしている、31年前の事件の真相を知りたいという思いが強かった。

 物語はこの家族によるルーツ探りである。そのプロセスは時空をジャンプし、大きな流れのように、家族を巻き込むのである。寝不足になるのを覚悟でお読みなさい。